海上自衛隊の空母保有は長年の願望であった。筆者が知る限り1980年代からその願望があったが、2つの制約要素があった。1つは憲法上の制約、もう1つは米国(米海軍)の反対であった。
後者に関して言えば、現在の「ひゅうが」型が構想された1990年代に、米海軍には「はるな」型ヘリコプター搭載艦の後継として、災害対策にも使用するため搭載ヘリ数を増加させると説明していた。
●攻撃型空母には該当せず
しかし、最近の米第7艦隊司令官との懇談では、米海軍が保有する強襲揚陸艦と「いずも」型護衛艦でF-35Bを相互運用する構想すら出ている。F-35Bは短距離離陸・垂直着陸も可能な最新鋭ステルス戦闘機で、国際情勢の厳しさと自国の海軍兵力の緊縮化により、寧ろ海上自衛隊に期待する方向に変化している。
問題は憲法上の制約で、これまで政府は、「攻撃型空母の保有は自衛のための必要最小限の範囲を越える」として来た。たしかに米海軍のニミッツ級原子力空母は攻撃型空母に相当するであろう。しかし「いずも」型は、英国のスキージャンプ式空母「クイーン・エリザベス」級よりも遥かに小さく、攻撃型空母には該当しない。
トン数から言えば、1960年代から1970年代に米海軍が、いわゆる「軽空母」として計画した制海艦(Sea Control Ship:満載排水量13700トン)に該当する。「かが」、「いせ」は、それぞれ、「いずも」型、「ひゅうが」型の2番艦である。
●制海権奪取許す憲法とは
「いずも」型は、中国の人民解放軍海軍が保有する空母「遼寧」よりもずっと小さい。しかしF-35Bを搭載すれば、「遼寧」よりはずっと戦闘力が高くなる。「遼寧」の艦上戦闘機J-15は燃料満載では武器が殆ど搭載できないからだ。
とはいえ、人民解放軍海軍は空母の2番艦を進水させ、来年には就役させる。また2020年以降に原子力空母を2隻建造するといわれ、さらに上海では強襲揚陸艦を建造中である。このまま手をこまぬけば、東・南シナ海の制海権は完全に中国の手に落ちるであろう。尖閣諸島を奪われ、南シナ海で中東からの重要な海上交通路を人民解放軍海軍にコントロールされても、優先させなければならない憲法の制約とはいったい何であろう。
12月26日の中国環球時報は「日本は世界を騙して戦闘機F−35Bを導入し、『いずも』を空母化しようとしている。ならばわが方は空母建造を急げ」と報じた。5年前に大連で行われた国際会議でも人民解放軍海軍の上級大佐が、「日本はタイの空母より大きな空母を建造した。だから中国もそれに対抗して空母を建造するのだ」と述べていた。これこそ他国を口実に自国の軍拡を正当化する中国の常套手段である。筆者は、中国が1980年代からオーストラリアの空母メルボルンを購入して、空母のカタパルト研究を着々と行っていたのを知っている。中国の空母保有願望はその頃から一貫した行動であり、日本への対応ではない。