欧州の政治問題に詳しいトム・オサリバン氏は、1月26日、国家基本問題研究所の企画委員会でゲストスピーカーとして、欧州の安全保障の問題について語った。
氏は、アイルランド出身でEU市民権を持つ公認会計士、土木技師。ドイツ銀行、バンクオブアメリカ、メリルリンチなどで20年以上にわたり香港、東京を中心にアジア太平洋地域の業務を経験した後、日本でMathyos Advisoryを創設。国際企業や機関に対し外国投資戦略などをアドバイスし、その国際経験を活かしアジアのビジネスや安全保障についてのコメントをメディアに寄せるなどしている。
まずオサリバン氏は、欧州情勢について日本国内では英国のEU離脱(BREXIT)ばかりが注目を集めるが、実は多岐にわたる着目点があると指摘。安全保障面ではEU内の防衛協力を拡大する枠組みである「常設軍事協力枠組(PESCO)」の議論が進展していることを紹介。
協力の具体策は装備の調達、研究開発、兵站拠点の設置、共同軍事訓練などでEU以外の国の参加も見越しているという。この議論に慎重だった英国の離脱により、初めてEU基本条約(リスボン条約)上の防衛協力の枠組み交渉が進展したという経緯もあるとのこと。
その他、欧州諸国にとりロシアの現実的な脅威というのは無視できないこと、EU内の経済問題、難民流入の問題、ポピュリズムの問題、など話題は尽きなかったが、中でも拡大する中国の影響力を注視したいとした。すなわち、大きな経済力とともに「一帯一路」構想のもと、着実に中央アジア、インド洋、東部アフリカ、西アジアへと拡大する様相は、欧州諸国の意識を覚醒させつつあるとの見方を示した。
(文責 国基研)