公益財団法人 国家基本問題研究所
https://jinf.jp/

国基研ろんだん

  • HOME
  • 国基研ろんだん
  • 南シナ海に「空母キラー」放った中国の狙い 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
2019.07.08 (月) 印刷する

南シナ海に「空母キラー」放った中国の狙い 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 複数の米メディアによると、米国防総省当局者は4日までに、中国が南シナ海で6月末に対艦弾道ミサイルの発射実験を行ったことを明らかにした。同海域で中国のミサイル実験が確認されるのは初めてとみられる。報道によると、ミサイルは南沙(英語名スプラトリー)諸島近くの「人工構造物」から発射された。「空母キラー」と呼ばれるDF-21Dか、グアムキラーと呼ばれるDF−26かのどちらかと思われる。DF-21Dの場合、当時人民解放軍が演習を行なっていたのはスビ礁北のドレイアー洲周辺であるが、ここには我が国にとって死活的な海上交通路が通っている。
 中国の狙いは、政治的には、大阪で開かれた主要20カ国・地域(G20)首脳会議を舞台に協議された米中貿易摩擦や香港での大規模デモや来年1月の台湾総統選に対するメッセージだろう。軍事的には、米国をはじめとする日、仏、英、豪、加による南シナ海での「航行の自由」作戦等に対する牽制と思われる。
 中国国防省は5日、実弾射撃を伴う定例訓練の一環と反論したが、習近平国家主席は「南シナ海の軍事化は行わない」と言明してきた。明確な違反行為である。

 ●航行の自由作戦を強烈に牽制
 中国の対艦弾道ミサイル開発はこれまでも指摘されてきたが、実戦で使用できるものか否かについては確認されていなかった。中国は今回、センサーや指揮管制システムを含めて実証したことになり、航行の自由作戦を推進する西側諸国に対して「安心して航行できないぞ」とのメッセージを送った形だ。台湾危機事態に西側が介入する動きを牽制することにも繋がる。
 海上自衛隊は6月中旬、南シナ海でヘリ搭載型多目的護衛艦「いずも」が米海軍の空母ロナルド・レーガンと共同訓練を行い、同月下旬には「いずも」など護衛艦数隻と海上保安庁の巡視船との共同訓練も行われた。自衛隊と海保が共同でプレゼンスを示す行動は、米海軍も沿岸警備隊と行っている。これは沿岸警備隊しか保有しない国との交流や、不法漁業取締など海軍が保有しない権限の行使上、極めて有効である。
 南シナ海では5月にも飛行中のオーストラリア軍のヘリコプターが中国関連と疑われる漁船からレーザー照射を受けている。弾道ミサイル発射は、南シナ海における一連の海自を含む西側海軍・海保を含む沿岸警備隊の活動に対する対抗措置と考えることができる。

 ●潜水艦の新型ミサイル発射も
 日本のメディアでは報じられていないが、南シナ海での弾道ミサイル発射が報じられた数日前には、中国が南シナ海から米本土を直接狙える潜水艦発射の新型弾道ミサイルJL-3の発射試験を行なったとの報道もあった。
 筆者は、かねてから西沙、南沙、スカボロー礁で囲まれる戦略的三角形での中国の要塞化は、米本土を直接狙える弾道ミサイル搭載原子力潜水艦の聖域化を確保するためであると主張してきた。一連の中国の行動は、南シナ海の聖域化を一層推し進めることになるであろう。