公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2020.05.27 (水) 印刷する

軍事的緊張高まる中台関係 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 22日開幕した中国の全国人民代表会議(全人代)で中国共産党幹部は、これまで中台関係で使用してきた「和平統一」から「促進統一」に改めた。平和裏に台湾を統一する考えを捨て、武力行使をも辞さない意志表明の現れと見られる。26日に行われた習近平国家主席の全人代における軍幹部への演説でも、新型コロナウイルスへの対策を続けながらも軍の強化を着実に進めるよう指示した。

 ●コロナ隠れ蓑に軍事的な攻勢
 中国は新型コロナウイルスの影響で第1四半期の国内総生産(GDP)が初のマイナス成長となったにもかかわらず、2020年国防費は前年比6.6%とする方針を明らかにした。公表分ですら日本円換算で約19兆2000億円と巨額であり、外国からの武器調達費や研究開発費等など〝隠れた国防費〟を加えれば、日本の防衛費(約5兆円)の約5倍となっている。
 中国は4月中旬、南シナ海で人工島を含む海域に新たに行政区を設定したが、これは南シナ海上空にも防空識別圏を設ける布石と捉えることができる。
 東シナ海でも5月上旬、尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺の領海で中国軍事委員会の隷下にある海警船が日本漁船を追尾するという新たな段階に踏み切っている。中国は世界が新型コロナウイルスへの対応に追われているこの機を狙って、軍事的な攻勢をかけていると捉えるべきであろう。

 ●魚雷売却と潜水艦建造はセットか
 5月20日、台湾の蔡英文総統の2期目の就任式に際し、米トランプ政権は台湾にMk48大型誘導魚雷18発を売却することを発表した。Mk48魚雷は潜水艦発射の魚雷であるが、台湾には博物館に展示しておいた方が良いような第二次大戦時代の潜水艦2隻と、これまた古いオランダ製のズハールトフィス(剣竜)級潜水艦2隻の計4隻しか保有していない。Mk48魚雷を搭載して作戦を行える代物ではない。
 台湾の呉剣燮外交部長は21日、新たな魚雷は国産潜水艦で使用する旨述べたが、搭載する潜水艦ができていないのに何故魚雷だけを売却するのか不思議である。恐らく、これは米国が台湾の新しい潜水艦の建造にコミットするという意図を暗示したものであると受け取らなければなるまい。
 案の定、中国国防省の報道官は24日、「強烈な不満と断固とした反対」を表明した。
 米国の議会とその背景にある世論が、今回の新型コロナウイルスの蔓延に中国は責任を取らなければならないと厳しい態度をとっていることから、米中が軍事的な対立にも発展する可能性を常に念頭におくべきであろう。その可能性が最も高いのが台湾海峡である。

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