公益財団法人 国家基本問題研究所
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2021.04.27 (火) 印刷する

海外神社論について 菅浩二・國學院大學教授

菅浩二・國學院大學教授が4月23日(金)国家基本問題研究所に来所し、定例の企画委員会において海外神社論について語り、その後櫻井よしこ理事長をはじめ企画委員らと意見を交換した。

【概要】
「海外神社」とは、日本列島の外部の神社の総称である。現在もハワイや南北米大陸等に少数ながら移民創建の神社が存在するものの、他の日本領土・勢力圏の総数約二千近く(政府創建の神社から村落の小祠まで)が、先の敗戦による邦人引揚とともに廃絶した。

そのうち各「外地」の総鎮守は、国家の統治構造からも重要な位置を占めていた。明治維新以降の国家制度形成を、「祭政一致」と「政教分離」の側面から捉えたい。明治国家は復古と開化の両方向のベクトルを束ねている。律令制二官を、祭祀を司る神祇官が太政官に優先すると解する理念が存在した。他方で現実の近代国家形成において求められた政教分離(政治と宗教の切り離し)では、祭祀は宗教とは異なる位置づけとされ、祭政一致が浮かび上がる構図となる。そしてわが国の海外展開とともに、外地統治に総鎮守が重要な役割を担うようになる。

同じ外地でも、開拓を掲げた台湾や樺太では、総鎮守の祭神は開拓三神(大国魂命、大己貴命、少彦名命)であったが、朝鮮に対しては同祖との捉え方も背景に、天照大神が前面に出るという違いがある。朝鮮では併合の前後、檀君を皇祖に対応する民族祖神と見る動きもあり、他の外地と大きく扱いが違っていた事実もある。

海外神社の発展と衰退の歴史は、わが国による植民地支配から敗戦に至る過程と相関していることは否めない。だが最末期の、戦時期学校教育・社会教育の一環としての総動員下の集団参拝を「参拝の強要」とするにせよ、その印象をもって全ての営みを現地への宗教侵略だとする短絡的言説には、誤謬があると言わざるを得ない。

総力戦体制下に、物資動員と同じ次元で参拝者動員も行われたのは事実だ。朝鮮や台湾など、現地へ赴き直に話を聞く機会もあったが、昭和戦時期の集団参拝で浮かび上がるのは、その当時の参拝者が必ずしも崇敬者ではなかった実態だ。確かに、当時の子供たちは学校での団体参拝を行っていたが、彼らの内面に統治者側がどこまで影響を与えられたのか。

多民族国家の統合と精神文化について考える上で、海外神社の歴史が示唆することは多い。

【略歴】
1969年、兵庫県出身。大阪大学文学部哲学科卒業、國學院大學文学研究科神道学専攻博士課程修了。博士(宗教学)。現在は國學院大學神道文化学部教授。研究分野は宗教とナショナリズム論、近代神道史。『日本統治下の海外神社 朝鮮神宮・台湾神社と祭神』(弘文堂、2004年)などの著作がある。

(文責 国基研)