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2021.05.17 (月) 印刷する

「一帯一路」に対峙する豪州の立法措置 国際弁護士・アンドリュー・トムソン氏

国際弁護士のアンドリュー・トムソン氏が5月14日(金)国家基本問題研究所に来所し、定例の企画委員会において豪州における中国の「一帯一路」政策への対応について語り、その後櫻井よしこ理事長をはじめ企画委員らと意見を交換した。

【概要】
オーストラリア・ビクトリア州が中国と結んだ協定が、先月破棄された。巨大経済圏構想「一帯一路」に加担する協定が破棄された経緯は、拙稿「豪州が『一帯一路』協定破棄した深刻な事情」(4.26国基研ろんだん)を参照されたい。

ここで述べておきたいことは、豪州の安全保障に関する法的枠組みがいかに対応してきたかである。歴史的に豪州は州政府の権限が強いのだが、外交に関しては権限を有していない。よって連邦政府は特別に立法措置で州の暴走を見張る必要が生ずるということを前提に以下の立法措置を見ていただきたい。

まず、1975年に外国の投資が、豪州企業を買収することを規制するための「外国買収法」を制定した。これは、主に米国からの買収攻勢に対抗することが目的で、当時反米の左派労働党政権により成立した。その後、外国からの干渉は目立たなかったが、2000年以降、中国による干渉が顕著になった。

例えば、中国の資源会社が豪州の農地や採水権に目を付け、投資するようになる。すると2015年に、外国人による水と農地の権利取得の透明性を図るための名簿を整備する「水資源と農地の外国人所有名簿法」を制定した。

2018年には、州政府が管理する土地に重要インフラがあるような場合、連邦政府が行政指導できるようにするため「重要インフラ施設安全保障法」を制定。続いて、外国政府を代理する人物を透明化する「外国影響透明化法」を制定。豪州で働く外国人が中国政府とリンクしていれば、それを監視できるようにした。

さらに相次ぐ中国人スパイ事件に触発され「スパイ工作と外国干渉法」を制定し、加えて、外国からの干渉を取り締まる連邦警察と州警察並びに諜報機関を調整するための「外国干渉防止調整官」という役職を内務省に新設した。

この「外国干渉法」が適用された最初の事例は、2020年11月5日、連邦警察がメルボルン市の中国系ラオス移民が中国の諜報機関と接触し、ビクトリア州の政治家に働きかける準備をしていたため、逮捕・起訴された。

最近の立法は、2020年に、州政府・自治体・大学などが外国政府と結ぶ協定を監視・規制する「外国関係法」を制定。また、安全保障に関連する企業・土地・施設に投資する外国人の活動を規制する「外国投資改革規則」を制定。

さて、ビクトリア州政府は2018年と2019年に連邦政府に相談なく中国と協定を結んだ。これが「外国関係法」上、豪州の国益に反するとして本年4月に破棄された。今後は、ダーウィン港の中国企業によるリース契約や、豪中の大学間共同研究なども同法の対象になるか検討されるだろう。

このように、豪州は近年中国共産党からの浸透工作を受けつつ、連邦政府と州政府の権限を調整し、新たな立法措置による厳しい対応をとりつつある。これと比較して日本の対応は緩いように感じる。日本が日々受けている中国の浸透工作対処の参考になってくれることを祈るばかりである。

これから東京オリンピックを迎える日本であるが、シドニーオリンピック担当大臣の経験から言えることは、仮に開催されるならば、全世界が注目する場であるから、中国の浸透工作や人権侵害を宣伝する絶好の機会となるはずだ。ただし、コロナ禍対策は慎重の上にも慎重を期すは当然で、難しい判断であることは否めない。

【略歴】
1961年、オーストラリア生まれ。メルボルン大学法学部・文学部(日本語・中国語)卒業。ジョージタウン大学法学修士。1983年、慶應義塾大学に留学。1986年、北海道大学法学部助手。その後、東京の外資系金融機関で法務業務に携わる。1995年~2001年、豪州連邦議会議員。外務副大臣、スポーツ観光省(シドニーオリンピック担当)大臣、国際条約審査委員長、豪日国会友好議員連盟会長等を歴任(ゴルフの全英オープンで5回優勝したピーター・トムソン氏の長男、ゴルフ解説も行う。)主な著書は『世界の未来は日本にかかっている 中国の侵略を阻止せよ!』(育鵬社、2021年)である。 (文責国基研)