6月18日(金)福井県立大学教授で国基研の企画委員兼研究員でもある島田洋一氏は、定例の企画委員会において、「アメリカの政治制度をめぐる攻防」について語り、その後櫻井よしこ理事長をはじめ企画委員らと意見を交換した。
米議会の議席配分は、下院435議席のうち、民主党219、共和党211、空席5で、上院100議席のうち、民主党50、共和党50で、民主・共和両党が拮抗している様子が分かる。上院は同数で、下院も8議席しか差が無く、5議席が動けば共和党が逆転する状況にある。
米国では10年ごとに国勢調査が行われ、州ごとの人口が下院の議席数や大統領選の選挙人の割り当てを算出し直す。2020年の国勢調査の概要が4月に発表され、その結果、下院の議席数が13の州で変更され、南部テキサス州やフロリダ州(共和党優位)では、共和党寄りの区割りになるとの見方が強い。
このままでは、来年の中間選挙以降、連邦下院選において共和党優位に進むのではないかという民主党側の危機意識は明らかだ。
現在、共和・民主両党間の攻防の焦点の一つが、投票システムに関するH.R.1(For the People Act of 2021)法案である。これは、期日前投票や郵便投票において民主党支持者の多いマイノリティーが署名のみの本人確認で投票可能とする法案で、当然共和党は反対してきた。
共和党が反対する根拠は、合衆国憲法の規定にある。両院選挙の方法は各州が定め、例外として上院のみ連邦が介入できる法を制定できる(憲法第1章4条1項)。また大統領選挙の方法は各州が定める(憲法第2章1条2項)、という規定に従えば、連邦の介入は憲法違反になるという。
H.R.1は下院を既に通過している。しかし、民主党が議長を含め過半数を取っていても上院の通過は見通せない。なぜならば、フィリバスターという上院独特の議事規則があるからである。これは、法案審議を打ち切り採決に入るには6割の賛成を得る必要があるというもので、このままだと、民主党は過半数の賛成は得られるものの6割には達せず、通過は不可能なのである。
そこで、民主党はフィリバスター制度廃止を目論むのだが、民主党内にも廃止に同意しない議員がいる。たとえば、ウェストバージニア州選出のジョー・マンチン上院議員だが、地元が共和党支持基盤のため、上院の伝統であるフィリバスターには反対できない事情がある。
このように、来年の中間選挙に向け、米議会では攻防が繰り返されており、その行方を注視していきたい。
【略歴】
1957年大阪府生まれ。京都大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程終了後、京大法学部助手、文部省教科書調査官、2003年より現職。拉致被害者を「救う会」全国協議会副会長、国家基本問題研究所企画委員・評議員。
著書に『3年後に世界が中国を破滅させる 日本も親中国家として滅ぶのか』『アメリカ・北朝鮮抗争史』、共著に『新アメリカ論』『日本よ「戦略力」を高めよ』、その他論文多数。
(文責 国基研)