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2021.09.13 (月) 印刷する

アフガニスタンのタリバン政権とインド・パキスタン 近藤正規・国際基督教大学上級准教授

近藤正規・国際基督教大学上級准教授は9月10日、国家基本問題研究所の企画委員会においてアフガニスタンに絡む南アジア情勢の様々な側面について語り、櫻井よしこ理事長をはじめ企画委員らと幅広く意見を交換した。

近藤上級准教授の発言内容は概略次のとおり。

【概要】
アフガニスタンの米軍撤退とタリバン政権の発足は、インドに大きな衝撃をもたらした。インドにとってアフガニスタンは戦略的に重要な国である。2001年に米国支援の下アフガニスタンに傀儡政権が樹立し、その結果宿敵タリバンを駆逐できただけでなくパキスタンを牽制するという仕組みが、今回いきなり崩壊してしまった。

インドのアフガニスタン投資は過去20年間で30億ドルという決して少なくない額だ。象徴的な案件は、国会議事堂やサルマンダムの建設、あるいはアフガニスタン西部とイラン国境を結ぶ幹線道路の建設などだ。この交通路の建設は中パ経済回廊(CPEC)に対抗する戦略回廊として位置づけられるが、これらODA努力が水泡に帰したことは、インドにとっても大きな誤算であった。

さらにインドが恐れるのはテロの問題である。たとえばカシミールは中パ両国とも国境を接しており戦略的に最も重要だ。そこでは住民の95%がイスラムでパキスタンのテロ組織が活動する温床となっている。中でもラシュカレ・タイバ(LeT)が積極的であるし、インド国内の他のテロ組織も活気づく恐れがある。

インドは外交戦略の見直しを迫られるだろう。これまでは、反パキスタンのアフガニスタン政権を支援しながら中国から国境を守ってきたが、今後アフガニスタン新政権との関係をどうするか。インドは中東諸国に対し全方位外交を展開してきたことは新政権と交渉する上で役立つだろう。しかし米国に対しては、そもそも信頼性が低く、今回の件でさらに低下したことは否めない。

他方、パキスタンにとって、タリバン政権の復活はチャンス到来だろう。コロナ禍でCPECは規模縮小の恐れが生じ中国の後ろ盾は期待できず、サウジアラビアとも関係がギクシャクし、国際的に孤立の懸念があった。そこへ今回の騒動が起き、タリバンに影響力があるということで世界中から脚光を浴びることになったのだ。米国は自国民救出作戦をパキスタンに依拠し、欧州諸国も外相を派遣するなど媚びを売るようになった。パキスタンは国際社会で注目を浴び、それを最大限に利用できる環境にある。

しかし、手放しでは喜べない。難民問題がその一つである。アフガニスタンの難民希望者の多くが、パキスタン北西部にも居住するパシュトゥーン人なのだが、受け入れるだけの資金的余裕がない。また、タリバン新政権が前回のタリバン政権と異なり、パキスタン軍部の思惑通りに動かないことや、パキスタン・タリバン運動(TTP)といった国内テロが激化する恐れもある。

中国にとっても、テロ対策は喫緊の課題である。パキスタン北西部ではパシュトゥーン人のテログループが活発で、南西部グワダール港はCPECの要だが、バロチ人テログループがこれを妨害している。タリバンの活動が活性化すると、それに呼応してイスラム過激派によるテロも活発になる恐れがあり、新疆ウイグル人の反体制運動を抑え込むためにもタリバン新政権に一石打っておく必要がある。

いずれにしても、インドやパキスタンだけでなく中国にとっても、アフガニスタンのタリバン政権との付き合いは必要だが、決して簡単な相手ではない。

【略歴】
1961年生まれ。スタンフォード大学博士(開発経済学)。アジア開発銀行、世界銀行等にて勤務の後、1998年より国際基督教大学助教授、2007年より現職。2006 年よりインド経済研究所客員主任研究員、日印協会理事を兼任、2011年よりハーバード大学客員研究員。財務省「インド研究会」座長、日印合同研究会委員、国基研では客員研究員を務める。専門は開発経済、インド経済。主な著書に『現代インドを知るための60章』(共著、明石書店、2007)など。(文責・国基研)