今年4月に亡くなった台湾独立派の長老、彭明敏先生の追悼集会が大阪であった。そこで容易ならぬ情報を得た。東京の一部では、安倍晋三元首相の通夜・葬儀に台湾の頼清德副総統の弔問を得たことが一大成果であったので、次は安倍氏の国葬(9月27日)に蔡英文総統の訪日を要請して台湾支援態勢を固めたいと考えているという。
これは由々しき事態である。彼らは台湾内政を十分理解せず、安易に考えて行動しているように見える。蔡英文総統に来日要請をしたら、台湾の前途を危うくする恐れがあるからだ。
「真の独立派」頼氏の地位揺らぐ?
東京の一部の人々は、蔡総統と頼副総統の微妙な関係が判っていない。
蔡総統は、1期目は優勢だったので副総統に自派の陳健仁氏を選べた。しかし、2期目は直前の地方選挙で慘敗を喫したため、蔡派は身を慎まざるを得ず、対抗勢力を宥めるため、敢えて別派閥(真の台独派)の有力者、頼氏を副総統に迎えたのである。頼氏は当時、「ライバルの蔡英文の副総統になれば、次期総統選出馬に不利になるからやめた方がよい」と言われたのを、不利を承知で敢えて台湾のために蔡氏に協力して副総統に就任した。そのため、頼氏の愛国心の深さが讃えられたほどだった。
頼氏の安倍氏弔問は、蔡総統の知らぬ間に決めて動いたから実現したのであって、蔡氏は事後承認するほかなかった。
従って、我が国が今後、蔡総統に訪日を招請した場合、まずい事態を招く恐れがある。蔡氏は、中国共産党の台湾への圧力が増している今の状況で訪日に応ずるのは無理だから、自身の代理に1期目の副総統だった陳氏を訪日させるだろう。すると、副総統の身分で訪日して「次期総統」の地位を固めた筈の頼氏の前途に影が差すのである。陳氏が次期総統選の有力な対抗馬となるからだ。従って、「真の独立派」である頼氏の当選を危うくするような「総統訪日要請」など、絶対してはならない。
複雑な内情に目を向けよ
台湾の政情は複雑極まる。100万人以上の台湾商人が資金と技術を持って中国に駐在している現状を見ただけで、台湾の「独立志向」がどれほど微妙なものかが判る筈である。民進党は決して独立志向の政党ではないから、民進党に働きかける時は、よくよくその内情を承知した上で方策を決めて頂きたい。日本人の多くは、台湾を安直に「親日」と信じ込み過ぎているように思う。
東京の親台湾派の人たちには、2019年1月3日に、彭明敏、呉澧培、李遠哲、高俊明の台独4元老が蔡総統の引退勧告を新聞に掲載し、2期目の立候補をやめるよう求めたことを想起して頂きたい。(了)