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2022.08.01 (月) 印刷する

佐渡金山問題で大失態演じた文科省 西岡力(モラロジー道徳教育財団教授)

国連教育科学文化機関(ユネスコ)が佐渡金山の世界遺産登録の審査を止めていたという驚くべき事実が7月28日、判明した。2月に日本政府からユネスコに提出された推薦書に不備があるとして、ユネスコ事務局が諮問機関への書類送付をしていなかったのだ。

不備が指摘されたのは「西三川(にしみかわ)砂金山」の砂金を採取するための「導水路」の扱いだ。導水路に途切れがあり、ユネスコは途切れた部分について「記載が不十分だ」と指摘した。

2月に提出した推薦書は修正が許されない。文科省は書類に不備はないとして、次官をユネスコに送るなど交渉を続けたが、ユネスコ事務局の決定は覆らなかった。

韓国の登録反対とは無関係か

本来ならユネスコ事務局は我が国から提出された推薦書を諮問機関である国際記念物遺跡会議(イコモス)に2月中に送付し、イコモスが書類審査と今年秋の現地調査などを踏まえて、来年春頃に、①「(世界遺産一覧表への)記載」=登録適切②「情報照会」=追加情報を求める③「記載延期」=推薦書の再提出④「不記載」=登録不適切―の4段階の評価を行い、①の評価を得られれば、来年末のユネスコ世界遺産委員会(22カ国が委員)が登録を決めるはずだった。

私が関係者に取材したところでは、韓国が朝鮮人戦時動員問題を持ち出して登録に反対していることがユネスコ事務局の対応に影響を与えた事実はないと思われる。通常は推薦書提出の前年の9月末までに暫定版をユネスコ事務局に提出して、不備の指摘を事前に受けて修正作業を行うが、文化庁文化審議会の推薦候補選定がちょうどこの年に推薦基準の改定があったため12月まで延びた。その結果、暫定版を提出できなかった。文化庁は関係者に大丈夫だと説明していたようだが、重大なミスがあったのだ。

地元自治体にも隠した

佐渡市を選挙区として佐渡金山登録のため積極的に活動してきた細田健一衆院議員(自民)は「2月末にそのような指摘があったにもかかわらず新潟県や佐渡市と情報共有をしていないのは大問題である。地元を馬鹿にするな」と文科省幹部らを叱責した。申請主体の新潟県と佐渡市は、今秋のイコモスの専門家による現地調査に向けて全力で準備していた。その県と市にも隠していたのだから、文科省の役人たちの無責任さは糾弾に値する。

私たち民間の学者も、地元と連携しながら、佐渡金山における朝鮮人戦時労働の実態を史料に基づいて明らかにし、その成果を日本語だけでなく英語と韓国語にして公表し、韓国の研究者を招いて「強制労働」説を学問的に論破する講演会を東京と新潟で開くなど、イコモスの現地調査に向けた活動をしてきたから、裏切られた気持ちを抑えきれない。

遅延を「強制労働」説論破の機会に

文化庁は新潟県と佐渡市と協議して、推薦書を修正した上で9月に暫定版をユネスコ事務局に提出するという。1年を無駄にしたことになるだけでなく、2025年に世界遺産委員会に韓国や中国が入り、佐渡金山の登録決定会議にこの2カ国が委員として参加する可能性が高いので、登録への障害が増えたことは事実だ。

韓国で強制労働説に反対する研究を進めている李宇衍博士は「与えられた1年という期間を使って、強制労働説を完膚なきまでに論破する研究を進めましょう」と私に伝えてきた。政府は、佐渡金山世界遺産登録だけを目標とせず、内外で広まっている強制労働説の嘘を暴く国際広報にこそ力を入れるべきだ。(了)
 
 

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第186回 佐渡金山のユネスコ登録、審査に入れず。

まさに驚きのニュース。原因は単純な書類不備。朝鮮人戦時労働者問題とは無関係とのこと。文化庁の失態では済まされない。国益を棄損するミス、重く受け止めるべき。