尖閣諸島周辺で5月3日、中国海警船の塔載ヘリコプターが日本の領空を侵犯した。航空自衛隊南西航空方面隊(那覇基地)所属の戦闘機が緊急発進したが、現場に到着する前にヘリは海警船に着艦していたという。
本件に関してはすでに様々な論評を目にするが、本稿では今後の議論のため、領空侵犯機が退去しなかった場合の問題点などについて検討してみた。
強制着陸後の準備はあるか
国際法上、領海では外国の軍艦や公船に沿岸国管轄権が及ばないが、領空侵犯機には完全かつ排他的な管轄権が及ぶ。したがって領空侵犯機には領空外への退去を強制することができ、最後の手段として撃墜できることは周知のとおりである。
さて、領空侵犯機へのわが国の対応は、自衛隊法第84条で「自衛隊の部隊に対し、これを着陸させ、又は(中略)退去させるため必要な措置を講じさせることができる」と規定され、防衛白書に「退去を警告したり、最寄りの飛行場へ強制着陸させる」と解説されている。つまり、領空侵犯機が退去の要請に従わない場合、近くの飛行場へ強制着陸させることが想定される。
そこで、仮に領空侵犯機が空自機により近くの飛行場に誘導され着陸した場合、その処理をどうするかまで考えておく必要がある。
例えば、2001年に中国海南島沖で米軍EP3C哨戒機が中国軍戦闘機と接触し、海南島に緊急着陸したが、中国側はこれを領空侵犯と主張した。その後、米軍機搭乗員は拘束され、機体は調査後に分解されて、バラバラの状態で米国に返還されたという。
当然、空自は様々な想定をしているだろうが、それが果たして政府レベルで共有されているか不安が残る。着陸させる飛行場はどこが最も適当か、搭乗員の処遇や機体の一時収容場所、出入国管理上の取り扱いなど、考慮すべき事項を抽出して対策を事前に準備しておく必要がある。
事が起きてから付け焼刃的に対応するのでなく、外務、防衛、法務など各省庁に加え、関係する地方自治体などが横断的に対応すべきことを念頭に、政府内で入念に対策を講じておかねばならない。
海保や海自も活用せよ
また今回は有人ヘリによる領空侵犯であったが、次はUAV(無人航空機)による領空侵犯が起きるかもしれない。仮に相手がドローン(小型無人機)であれば、無線やフレア(火炎弾)による退去要請は当然通じないことから、その対策は事前に検討しておくべきものと思う。
ドローンへの対応は国際法上必ずしも確定した解釈が存在しないものの、国内的には中国偵察気球の米国領空侵犯事件(2023年)の際に、領空侵犯をした気球等に対しては「武器を使用することが許される」との政府見解があるように、最終的には撃墜することになるだろう。
ただし今回の件では、空自戦闘機が尖閣諸島の現場に到達するには一定の時間を要することも判明した。そのような場合、どうしたら即座に対応できるのか。例えば常に現場に所在するのは海保巡視船であることから、その塔載機銃で排除する方策が考えられる。
またUAVに限った話ではないが、将来的には海上自衛隊のいずも型護衛艦を尖閣近くに展開し、搭載予定のF35Bを対領空侵犯措置のために運用することも選択肢の一つとなるだろう。自衛隊法では対領空侵犯措置を「自衛隊の部隊」に命じると規定していることから、海自と空自による連携対処に法的な問題はないはずである。(了)