7月9日(水)、国家基本問題研究所(櫻井よしこ理事長)は、外国人による優れた日本研究を顕彰、奨励する第12回「国基研 日本研究賞」の授賞式及び記念講演会を、東京の内幸町にあるイイノホールで開催。
今回の日本研究賞は、大賞と奨励賞は残念ながら該当がなかったものの、日本研究特別賞が軍事史家のロビン・L・ライリー氏に贈られた。受賞作品は『日米史料による特攻作戦全史 航空・水上・水中の特攻隊記録』(小田部哲哉編訳、並木書房、2024年)である。
授賞式では、櫻井よしこ理事長からライリー氏に対し、賞金と副賞の万年筆が授与され、奥様にはプリザーブドフラワーが贈られた。授賞式に続き受賞記念講演会及び懇親会が開かれた。
ちなみに、著者名の日本語表記が受賞作品では「リエリー」となっているが、同氏がアイルランド系のため「ライリー」と発音するということで、今回は「ライリー」とした。
ライリー氏による記念講演会の概要は下記のとおり。
・日本研究特別賞受賞者・ライリー氏による記念講演
ライリー氏は、まず受賞作をはじめ氏の著述のきっかけは、父親の存在があったと語った。彼が太平洋における大戦中に、大型の上陸支援艇LCS(L)に乗艇していたことを知り、関連する戦闘記録を研究するようになったという。また、氏が米海兵隊に入隊して厚木基地に駐留したことで、日本の歴史と文化に触れ、武道の修行にも励むようになったことが、著作にも大きく影響したとのことである。
受賞作品は、日本の特攻作戦について主に米国側の記録、特に米海軍艦艇の航海日誌や戦闘詳報などの一次史料から読み解くことを目指した。極力客観性を保つため、表面的で情緒的な推論を排し、歴史文化の理解から始め、特攻を作戦・戦術と捉え直し、その戦果を正当に評価したつもりである。
ライリー氏は、まず日本のサムライ文化を理解する必要があったという。日本の歴史は西洋人には比較的知られていないが、武士階級の活躍を描いた映画程度の知識であっても、多少の理解には役立つ。また軍学書「甲陽軍鑑」などを読むと、サムライ文化が倹約、ストイック、名誉、服従、義務感、忠誠心、戦意高揚、勇気、自己鍛錬といった武士道精神(氏はエートスと表現)を醸成したことが分かり、後の特攻作戦に結びついていく過程は十分理解できるとした。
次に、自身の空手師範がかつて陸軍の航空兵だった経験談を踏まえ、大戦末期における切羽詰まった本土防衛作戦の状況を語り、「天号作戦」と称される一連の航空決戦について、米国側の詳細な記録をもとに説明した。結局、沖縄周辺の随所に配備された米レーダーピケット艦(レーダーによる索敵を任務とする)により、日本の航空作戦は裸同然となり、特攻作戦で米軍の侵攻を押しとどめることは叶わなかった。日本の残存航空戦力は、未熟なパイロットと不十分な機体であり、それで最大の戦果を上げるには、特攻は万策尽きた致し方のないものだった。だが、決して欧米が呼称するSuicide Attack(氏は、自殺は病的なもので特攻には当てはまらないと言う)ではなく、国や家族を守るための究極の自己犠牲であり、特攻隊員はいずれも勇敢な兵士であったと評価した。
最後に、史実を追う上には欠かせない史料研究の方法について語った。氏の調査は、概ねワシントンD.C.近郊にある国立公文書記録管理局(National Archives and Records Administration, NARA)と海軍歴史遺産司令部(Naval History and Heritage Command, NHHC)で行った他、実際に戦闘を経験した退役軍人たちにインタビューして話を聞くなど、長い時間を要したことが紹介された。(文責 国基研)