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2026.09.30 (水) 印刷する

『ウクライナ戦争(ドローン時代の始まり)』 松田邦紀・元ウクライナ駐箚特命全権大使

9月25日の国基研企画委員会は、ゲストスピーカーとして松田邦紀・元ウクライナ駐箚特命全権大使を迎え、「ウクライナ戦争(ドローン時代の始まり)」と題したお話を伺い、その後企画委員らと意見交換を行った。

ロシアによる全面侵攻の当事国で駐ウクライナ日本大使を務め、最前線の動向を直接目撃してきた大使の言葉には重みがある。今月13日には、ウクライナの首都キーウでの国際会議からの帰途、松田大使が乗車した列車や英元首相ボリス・ジョンソン氏ら西側要人の乗車した別の列車が走行していた路線が、ポーランド国境付近でロシア軍のジェット推進ドローンによる激しい攻撃を受けるという緊迫した事態に遭遇した。幸いにも、攻撃による死傷者は出なかった。その背景には、ウクライナ鉄道や国民のスマホに軍からリアルタイムで襲撃情報が通知される高度な防空警報システムが構築されており、事前に的確な退避行動が可能だったからだという。

今回は、生々しい現場経験を積んでこられた松田大使から、ドローンが名実ともに「戦場の主役」となった現代戦の分析を伺った。わが国の安全保障の観点から、この戦争から得るべき教訓は計り知れない。

以下、示唆に富む大使講話の概要をまとめる。

【概要】
1 最新の戦況と今後の予想
〇現在の戦況

ウクライナ東部戦線では、ロシアによる攻勢が失敗しウクライナ優勢の状況だが、双方による空襲は激化の様相を呈している。

地上戦においては、ウクライナ軍のドローン戦術(AI搭載ドローンで攻撃するキル・ゾーンを1200kmの前線全域に敷く)に対し、ロシア軍の旧来型の人海戦術は限界を露呈し始めた。

空戦では、ウクライナ軍の長・中距離ドローン攻撃(対軍事施設)に対し、ロシア軍のミサイル・ドローン攻撃(対民生インフラ)という、国際法を「守る側」と「守らない側」という非対称性が存在する。しかしウクライナ側は、シェルターなどの強固な防空耐性力を構築し、これに対抗している。

加えて海戦では、ウクライナ海軍は水中・水上ドローンによる攻撃を展開。これによりロシア海軍・黒海艦隊は本拠地のセバストーポリ港(クリミア半島)からの脱出を余儀なくされ、ノボロシスク港への退避・逼塞に追い込まれた。

現状として、ロシアが占領するクリミア半島では孤立化が進み、南部・東部戦線ともにウクライナ軍が優勢を維持している。さらに事実上、黒海の制海権はウクライナ側にあると言える。劣勢のロシアは、現在の戦力だけで新たな大規模攻勢をかけることは困難である。プーチン政権は今後、強制動員に踏み切って戦力を底上げするか、あるいは停戦交渉に応じるかという、重大な判断を迫られている状況にある。

〇戦争の傷跡
ロシア軍では、兵士の損耗は戦死傷者160万人(うち戦死者70万人)に達しているとされる。慢性的な兵員不足を補うため、今後、学生を含め50万人規模の強制募集・動員を行うとの情報もある。さらに北朝鮮から追加派兵3~5万人を見込んでいるが、その成否や実効性は不透明である。内政面では、財政や民生経済が著しく悪化しており、プーチン大統領の支持率低下とともに、民意には厭戦傾向が見られ始めている。

他方ウクライナ軍では、兵士の損耗は戦死傷者52.5~62.5万人(うち戦死者12.5~15万人)とみられる。これに加えて民間人の死傷者は6.8万人以上に上り、子供2万人を含む10万人以上の市民がロシア側に強制連行された。総人口に対する人的被害の割合は極めて大きいものの、国を守りぬくという国民の戦意は依然として高く維持されている。

〇ロシアのハイブリッド攻撃には要注意
今年は厳冬が予想されており、双方ともにエネルギー危機の再来が危惧されている。こうした中、ロシアはウクライナを直接・間接的に支援するNATO加盟国などに対し、軍事領域にとどまらない「ハイブリッド攻撃」を活発化させている。

具体的には、サイバー攻撃、内政や世論への言論干渉、破壊活動、暗殺、さらには領空・領海侵犯といった多様な手段が用いられる。これに対する警戒感や社会の「耐性」には欧州内で格差が生じており、ロシアの脅威に直面する北欧やバルト諸国が強い耐性を見せる一方、ドイツやフランスなどの主要国は比較的耐性が弱いとされる。この差に付け入るロシアの「分断工作」に対し、西側諸国がどこまで強い結束を維持できるかが、今まさに試されている。

2 ウクライナのドローン
〇急速に進むドローン国産化と量産体制

ウクライナ国内のドローン関連企業は2022年に7社だったが、25年には500社以上に急増した。生産台数は、22年の5000機から25年の400万機以上に、26年には700万~1000万機へと伸ばし、国産化を追求している。種類も22年の1種類から25年には1300種類(陸海空など全ドメインを網羅)へと拡大した。

ウクライナ国内での開発・生産は、当初の大学主導から現在は民間のスタートアップ企業へと移行している。政府は、民間企業、ウクライナ及び外国資金、前線部隊が直接リンクする開発プラットフォーム「Brave-1」を構築した。これにより、現場のニーズを即座に反映して、開発から生産、調達、配備までを統合し、わずか約2か月という短期間で新型機の量産を可能にする仕組みを確立した。

その上、ウクライナ軍はドローンを作戦の主軸にするため、独立した兵科としてドローン軍を創設。既存の陸・海・空軍・国防省情報総局(GUR)・ウクライナ保安庁(SBU)の内部にも専門のドローン部隊を設置し、運用体制を強化している。

さらにウクライナでは、「民間主導」で生産・開発を進めるだけでなく、ドローン単体、あるいは、レーダー・センサー・機体・AI等を組み合わせた「統合システム」として海外市場にも提供し、量産資金を獲得する好循環を生み出している。

他方、ロシア側は「国家主導」の開発体制をとっているため、最前線の兵士の声が開発現場に反映されにくいという弱点がある。しかしその一方で、ドローンのエンジンに中国製のターボジェットを導入するなどして高速化を図っており、技術的なキャッチアップを急いでいる。両国のドローン開発競争は激化している。

〇ドローンによる戦術変化
ドローンはAIを高度に活用することで、「自律化」と「省力化」を実現し、地上戦や防空迎撃戦のあり方を根底から覆している。旧来の人的資源に頼る人海戦術と比較して、その戦術変化は計り知れない。
特に目標(ターゲット)の「検知・識別」から「追尾・解析」、「攻撃・迎撃指示」、実際の「攻撃・迎撃」という一連の戦闘サイクルにおいて、いまやドローンとAIが大きなウェイトを占めていることは否めない。

長距離攻撃の場合、主軸となる攻撃型ドローンに加え、ミサイルや囮(デコイ)ドローンを組み合わせた複合的な波状攻撃が展開されている。これらはターゲットのある国に敷設された民間の電波を逆利用して誘導され、最終的にはAIの自律飛行により妨害電波を回避しつつ、目標を正確に破壊する。さらに、各種ドローンを統合した作戦も始まっている。例えば、上陸用舟艇ドローンに地上戦闘ドローンを搭載して上陸作戦を、あるいは空母型ドローンに航空ドローンを搭載し海上から地上拠点を空襲するということがすでに行われている。

3 AIの役割と今後の見通し
現代戦におけるAIは、いわば戦場の「頭脳」としての役割を担っている。各種センサーから集まる膨大なデータを瞬時に高速処理し、ドローンをはじめとする最適な兵器の選択から、オペレーション(運用)の完全自律化までを可能にすることが期待されている。さらに、実戦でのデータをフィードバックすることで、新たな武器開発のイノベーション・サイクルを大幅に短縮する役割も担っている。

今後は、人間の判断を介さない自律型ロボット兵士による戦闘や、国家間におけるサイバー戦争がさらに激化していくことが予想される。こうした中、戦争におけるAI使用の規制、とりわけ致死性自律型兵器システム(LAWS)の暴走を防ぐために、開発・運用の初期段階で「セーフティロック(国際的な倫理・技術的規制)」を組み込んでおくという議論もすでにあり、今後の重要な国際的課題といえるだろう。

いずれにしても、日本を含めた国際社会は、国際法を蔑ろにしてウクライナに侵略したロシアに対し、経済制裁を含めた圧力を緩めてはならず、また、防衛戦争を継続しているウクライナ支援を強化しなければならない。同時に、これ以上の犠牲を出さないための早期停戦に向けた、多角的な外交努力を継続していくことも欠かせない。
 
【略歴】
1959年生まれ、福井県出身。東京大学教養学部を卒業し、82年に外務省入省。欧州局ロシア課長を務めた後、駐イスラエル大使館公使、デトロイト総領事、香港総領事、駐パキスタン大使などを歴任。2021年10月にウクライナ駐箚特命全権大使に就任し、2024年10月に退官した。現在、DataDriven社シニア・アドバイザーの傍ら、「ウクライナ勉強会」を主宰する。 (文責 国基研)