森川伸吾・立教大学特任教授(弁護士)は12月14日、国家基本問題研究所で、「法制度から見た中国」と題して、社会主義憲法の特徴、共産党、政府、国家の法的側面について報告、国基研企画委員と意見交換した。
森川教授は、京大卒業後、ニューヨーク大学ロースクール、北京大学法学院で修士課程を修了した中国法制度の専門家。森川教授の主な発言要旨は次の通り。
● 憲法の性質とイデオロギー性
1)社会主義憲法であり、資本主義憲法と違い、三権分立はない。2)現憲法はマルクス・レーニン主義、毛沢東思想をベースに鄧小平理論(1999年)「三つの代表」の重要思想(2004年)を取り入れた。鄧小平理論では経済発展のためには何でも許され、すべて例外が一般化している。
● 中国共産党の地位
1)共産党の指導的地位は憲法で確認されているが、付与されたわけではない。気をつけなければならないのは、指導的地位は中国語の「領導」からの和訳であること。日本語の教え導く指導と違い、領導は指揮命令を伴う強い指導を意味している。2)党は憲法で規制されていないので、党の権力は無制限。3)党指導の実態はA)党員は上からの指示に服従しなければならない。B)党員は国家機関の主要ポストを占める。C)党の各レベルの組織や国家機関で働いている党員を通じて個別・具体的問題の処理に関する決定を執行する。D)国家機関の幹部人事を党が決定する。4)中国の法制度は、党による統治の道具である。つまり法律より政治が優先する。5)党指導の正当性は、「革命の実績」によるが、実際的には、持続的な「経済水準の向上」の実現によって支えられている。将来的にどうなるか?
● 軍事に関する国家機関
人民解放軍は国家中央軍事委員会がコントロール。委員会の委員長が主席で、主席責任制の下、主席の判断で意思決定が行われている。82年憲法で国家機関として中央軍事委員会を設ける旨、規定した。国家と党の中央軍事委員会の構成員は同じといわれ、実質的には党=国家の中央軍事委員会だ。
● 国民の権利、人権について
1)国家を超越するものとしての人権は認められていない。国家権力も人権による制限を受ける日本とは違う。2004年に人権条項を追加したが、これは「経済的な人権」、つまり生存権を意味している。毛沢東の大躍進政策で大量の餓死者を出した反省からきている。2)平等の権利は、法適用の平等であって、「法内容の平等」は保障されていない。
(文責 国基研)