公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2015.07.03 (金) 印刷する

宥和的な対北朝鮮交渉に終止符を 島田洋一(福井県立大学教授)

 北朝鮮が、日本人拉致被害者に関する「調査委員会」なるものを立ち上げて明日で1年を迎えるに当たり、菅官房長官が記者会見を行った。まず、その冒頭発言を引いておこう。

《菅義偉官房長官記者会見冒頭発言 平成27年7月3日 於:総理官邸
 明日4日で,北朝鮮が特別調査委員会を立ち上げ,調査を開始してから1年を迎えます。我が国は,昨年5月の「ストックホルム合意」を誠実に履行してきております。
 また、調査について日朝間に合意された具体的な期限があるわけでありませんが,調査開始から1年経った今も拉致被害者の帰国が実現していないことは改めて遺憾であります。
 本件については北京の「大使館」ルートで働きかけを行ってきたところでありますが,今般,先方より,全ての日本人に関する包括的調査を誠実に行ってきたが,今しばらく時間がかかる旨の連絡がありました。政府としては,遺憾ではありますけれども,北朝鮮からの具体的な動きを早急に引き出すべく働きかけを強化することとし,外務大臣,拉致問題担当大臣にこの旨を指示をしました。その結果も見極めつつ,日本政府としての今後の対応を判断していきたいと思います。
 政府としては,引き続き,「対話と圧力」,「行動対行動」の原則を貫き,全ての拉致被害者の帰国を実現すべく,全力を尽くして参ります》

 外務省が原稿を書いたのであろうが、「先方より,全ての日本人に関する包括的調査を誠実に行ってきたが,今しばらく時間がかかる旨の連絡がありました」などと、誠実であるはずがない相手の言葉をそのまま用いるなど、宥和的姿勢が明らかである。これが英語で発信されるなら、国際社会は間違いなく、日本政府は弱腰との印象を持つだろう。不見識ではないか。
 下記は、本日、拉致被害者家族会、救う会が連名で出した声明である。
 宥和派の外務省主導の交渉を続ける限り、日本をたぶらかせるという幻想を北朝鮮が持ち続けることになろう。外務省ルートの交渉など切れても構わない、どころか、未だに切れていないこと自体、相手ペースを物語っている。
 送金禁止などの制裁(届け出さえすれば、いくらでもまだ北に送金できるという現状がそもそもおかしい)、警察力による厳格な法執行など圧力を強めつつ、首相が信頼する特使を通じて、決着を迫るべきだろう。

《■声明
 北朝鮮が、拉致被害者等に対する調査結果について、「今しばらく時間が掛かる」と通知してきたという。
 私たちは、繰り返し、調査報告など問題ではなく「全被害者の一括帰国」の実現が評価の基準、と主張してきた。
 その観点から政府に問いたい。ストックホルム合意に基づく現在の枠組みで「全被害者の一括帰国」が実現すると見ているのか。そのように判断できる材料が水面下の交渉であるのか。
 絶対に譲れない「全被害者の一括帰国」が実現する見通しがないのなら、総理の発言のごとく、「未来を描くことが困難」な強力な対北制裁をかけるべきではないのか。
 政府に説明を求めたい。
 平成27年7月3日
 北朝鮮による拉致被害者家族連絡会 代表 飯塚繁雄
 北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会 会長 西岡力》