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2019.04.11 (木) 印刷する

米巡視船の佐世保配置、もう一つの狙い 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 3月26日付の「ろんだん」で、米沿岸警備隊の巡視船バーソルフが台湾海峡を通過したことを述べた。バーソルフは沿岸警備隊の巡視船としては初めて同月3日、佐世保に配置された。
 その理由は北朝鮮の瀬取り監視だとされ、確かに台湾海峡を通峡後は韓国の釜山に寄港している。しかし、瀬取りの監視であれば、横田基地に配備されている沿岸警備隊の航空機を使用した方が広域をカバーできるはずである。本音は、中国が近年強化しつつある軍の直接投入によらない、いわゆる「グレーゾーン作戦」に柔軟に対抗するためではないかと思われる。

 ●グレーゾーン作戦に対応
 近年、中国は海警局と呼称する海上法執行部隊の増強を図っているが、その点米側は全く非対称で、東アジアには沿岸警備隊の巡視船が常駐していなかった。このため中国が海上民兵や海警によりグレーゾーン作戦を起こした場合は、米側はいきなり海軍で対応せざるを得ず、事態がエスカレートする危険性があった。
 その場合、中国の漁民を米国の軍艦が追い払う印象を国際社会に与えかねず、それを避けるために、海警には沿岸警備隊の巡視船で対抗することにしたのではなかろうか。

 ●戦術指揮は第7艦隊に
 先月、米海大のエリクソン教授他1名の共著による『中国のグレーゾーン作戦』が上梓されたが、末尾の提言には、この非対称性を克服したいという思いが書かれている。
 2012年に中国の海上民兵がフィリピンのスカボロー礁を占拠したとき、フィリピンは即軍艦を派遣した。これに対し中国は法執行部隊の船を派遣し、フィリピンの過剰反応をプロパガンダとして国際社会に発信した。米国としては、その二の舞を演じないよう柔軟に対応する構えをとるということであろう。
 米沿岸警備隊は、平時は国土安全保障省の隷下にあるが、戦時には軍の隷下に入る。しかし、今は平時であるにも関わらず、バーソルフの戦術指揮は米第7艦隊司令官が執っていることに注目したい。