公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2021.09.27 (月) 印刷する

国民に痛みを問わぬ河野候補 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

河野太郎自民党総裁選挙候補は、外務大臣時代に米英豪加ニュージーランドからなる秘密情報共有枠組みである「ファイブアイズ」に加入したいと述べ、BSフジのテレビ番組でも同様の発言をしていた。司会者に「秘密保護法も出来ていない現状で入れるのか」と問われ、「6年前に施行された特定秘密保護法制定で近づきつつある」と回答していた。

しかし、外交・防衛に携わる政府関係者の秘密漏洩罰則強化が目的であった特定秘密保護法と、一般市民を対象としたスパイ防止法では対象者の数だけをとっても雲泥の差がある。ファイブアイズより更に扱う機密レベルが高い米英豪の枠組みAUKUSに日本が招かれないのは、国内にスパイ防止法が出来ておらず、対象国から日本は「スパイ天国」と認識されて同盟国からの信用が得られてないからである。河野候補の掲げる政策にはスパイ防止法の制定は入っていない。

中国のスパイ行為に大甘な日本の現状

平成19(2007)年、トヨタグループの一翼を担う日本最大手の自動車部品メーカー「デンソー」で、同社に勤務していた中国人技師が製品図面を盗み出し、横領容疑で逮捕された。盗まれた情報は17万件、うち機密情報は約1700件で、その中には産業用ロボットやディーゼル噴射装置などデンソーの最高機密が280件も含まれていた。この中国人技術者は平成2年の来日前はミサイル・ロケット開発を行う中国人民解放軍直営の軍需工場に勤務していた。

問題は、横領容疑で逮捕された中国人が後日、名古屋地方検察庁で嫌疑不十分で不起訴処分となったことである。スパイ防止法がないために、立件するためには、不正競争防止法や外為法を適用しているのが現状である。これでは諸外国に日本の秘密保持態勢が十分であるとは言えない。

類似事件は平成17年にも東芝子会社の元社員が潜水艦に転用可能な機密をロシアに漏らす事案があった。平成24年にも軍事転用できる炭素繊維が大阪の商社から中国に不正持ち出しされた。

これが、仮に原子力潜水艦を建造する民間企業であったらどうなるか?

同盟で抑止でもミサイル配備はダメの矛盾

もう一つBSフジの番組で司会者がイージス・アショアを葬った後の日本の弾道ミサイル防衛態勢を問い質したのに対し、河野候補は「イージス艦でやって貰う」と回答した。

元々イージス・アショアを導入しなければならなかった理由は、イージス艦が四六時中、洋上に展開する訳にいかず、南シナ海等で別の任務に従事させなければならないからであった。イージス・アショアを葬った後の弾道ミサイル防衛態勢を再びイージス艦でやって貰うと言うのは、防衛大臣として余りにも無責任ではないか?

河野候補は敵基地攻撃を「古い」として「日米同盟で抑止を」と言いながら、フジテレビで米国が推進しようとする太平洋抑止構想(Pacific Deterrence Initiative)で中距離ミサイルの日本を含む第一列島線配備について問われても賛成せず、高市早苗候補のみが賛成した。

26日のフジテレビ「日曜報道The Prime」で河野候補は原子力潜水艦の保有に賛成したが、原発稼働に消極的なら国内の原子力技術は発展しないではないか。国防のために必要でも、国民には痛みも伴うスパイ防止法やミサイル配備、原発については議論を避けようとするポピュリスト。こんな人物を、国民の命を守る総理大臣にしてはならない。