福井義高・青山学院大学教授は、11月25日、国家基本問題研究所の定例の企画委員会におけるゲストスピーカーとして、「Politics of Guiltの下での過去の克服」と題して、過去の歴史が以後の政治にいかに影響するかについて語り、櫻井よしこ理事長をはじめ理事、企画委員と意見交換した。
福井教授は昭和37年、京都府生まれ。東大法学部卒。国鉄、JR東日本、東北大大学院助教授を経て現職。米カーネギー・メロン大で経営工学の博士号取得。青山学院大学では国際マネジメント研究科に在籍、近著『日本人が知らない最先端の「世界史」』(祥伝社)がある。
氏はまず、ポール・ゴットフリードの著書『多文化主義と罪悪感の政治(仮訳)』を題材に、国際社会の中では過去の歴史上の出来事を利用して、犠牲者と加害者を作り出し、犠牲者サイドに特権を与える風潮があると指摘する。すなわち、犠牲者は加害者に対し、負の過去の告白と償いを武器に、反省しない他者を支配したがる。慰安婦問題などにも通じるこのような例は、形を変えつつ各国に見られるという。
例えば、英国の例では、ケニア独立運動の際、過激派を英国が暴力で弾圧したとして人権派弁護士が問題を提起したところ、英国政府は被害者遺族と裁判上の和解をし、見舞金は支払ったが法的責任は認めなかったという。ただし、このケースに刺激され、マラウィでも同種の訴訟が検討されるという連鎖を呼ぶことに。
次に、ドイツの例では、ナチス・ドイツの作った過去を戦後全否定して、過去から解放されたドイツ人は被害者であるという構図を作り、勝者と一体化したのだという。トルコの例では、第1次大戦中にオスマン・トルコが敵性国民のアルメニア人を迫害した事案では、ジェノサイドを否定するのがトルコ政府の立場であったが、スイスの裁判で敗訴。一方、欧州人権裁判所はスイスの判決を覆し、トルコは民族の名誉をかけた戦いを継続しているという。
ロシアの例では、ウラジーミル・メジンスキー(現職のロシア文化大臣)の著書『戦争』を引用し、ロシアは過去のソ連時代の黒い神話を破壊していると説く。すなわち、ロシア国民(ナロード)が勝利した第2次大戦を全面的に肯定し、国民の勝利を守るために、その後のイデオロギーによる負の歴史(黒い神話)を破壊するのだという。さらに大きな意味を持つのは、前出の『戦争』の中にある、歴史的事実を否定するような以下の一説だという。
「事実はそれ自体大した意味を持たない…事実は概念の枠組みの中で存在するに過ぎない。すべては事実でなく解釈から始まる。あなたが祖国を、自国民を愛するのであれば、あなたが書く歴史は常に肯定的であろう。常に!」(福井教授仮訳)
最後に教授は、現職大臣が上記の考えを持つ国と、わが日本国は領土交渉をするのであるから、第2次大戦の戦果としての北方領土をロシア国民から取り戻すのは相当骨が折れるだろうと主張した。
(文責 国基研)