大和総研シニアエコノミストの近藤智也氏は、11月2日、国家基本問題研究所の定例の企画委員会におけるゲストスピーカーとして来所した。近藤氏は「世界・日本経済の展望~トランプ大統領が内外にもたらす影響~」と題し、米国経済の現状を中心とした世界経済の展望や、対中経済摩擦が及ぼす日本経済への影響などについて語り、櫻井よしこ理事長をはじめ企画委員らと意見交換した。
まず氏は、米国経済の現状について概観した。リーマンショックの震源地だった米国は、いち早く危機前の経済水準を上回り、2017年の名目GDPは約19.5兆ドルとなり群を抜き世界1位であるとした。その経済成長を牽引するトランプ大統領は、11月6日に就任からこれまでの政策の審判とも言える中間選挙を迎える。一般的に、中間選挙では政権への批判票が投じられやすく、与党が議席を減らす傾向にあるが、これまで多くの公約を実現してきたトランプ大統領の人気は底堅いし、これまでのトランプ流の政策は選挙後も変わらないだろうと予想する。
一方、連邦政府の財政赤字は、2018~27年度の累計予測で約1兆5000億ドル膨らむ見込みという。さらに、貿易赤字の膨張により一層の保護主義的通商政策が継続すると思われる。とくに、米国の貿易赤字の大半を中国が占めていることから、対中貿易戦争へと発展しているが、わが国は中国、メキシコに次ぐ対米貿易黒字国で、いずれ日米貿易問題に波及するとした。
また、サプライチェーンとして定着している北米自由貿易協定NAFTAの再交渉が2017年から行われてきたが、域内の部品調達比率を定めた「原産地規制」などを含めた交渉が先月妥結し、米メキシコカナダ協定USMCAに変わり、日系企業の投資に直接的な影響が及ぶのは明らかだとも。
さて、IMFは、米中貿易摩擦による世界経済への影響を試算しているが、最悪の場合2020年の世界GDPは0.8%超押し下げられると見通している。また、米国経済自体も、現在の好調は長続きせず、徐々に縮小するのではないかとの見通しを示した。
近藤氏は、1996年一橋大学経済学部を卒業、同年大和総研に入社、2009年から3年間ニューヨークリサーチセンター長を歴任、現在、日本経済、経済構造分析、米国経済を担当している。
(文責 国基研)