公益財団法人 国家基本問題研究所
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2010.01.20 (水) 印刷する

韓国訪問報告 「自由統一」支持で日韓新時代の予感

主任研究員 冨山泰

国家基本問題研究所は2009年12月20~23日に代表団をソウルに派遣し、北朝鮮の急変事態に備えて「韓国による自由統一」を支持するよう日本政府に求めた国基研の政策提言(9月11日発表)について韓国の安全保障専門家らと意見を交換した。提言は韓国側に歓迎され、もし日本政府に正式な政策として採用されれば、日韓関係は過去のわだかまりを克服し、新時代を開くことが可能になるという感を強くした。

代表団には櫻井よしこ理事長、田久保忠衛副理事長、小倉義人理事と、西岡力、島田洋一、冨山泰の3企画委員が参加した。韓国戦略問題研究所の権泰栄(グォン・テヨン)博士は「国基研の提言は、私たちが望む日本の政策方向そのものだ」と語った。国家発展研究院(NDI)の金錫友(キム・ソクウ)院長(元統一省次官)も「提言に感銘を受け、励まされた」と高く評価した。代表団のために保守派専門家を集めてセミナーを開催してくれた金顯彧(キム・ヒョンウク)国際外交安保フォーラム理事長も、提言を絶賛し今後の戦略対話の継続を約束した。


国際外交安保フォーラムの金顕彧理事長(左から2人目)から「和而不同」(和して同ぜず)の墨書を贈られる櫻井理事長

韓国側が国基研の提言を歓迎したのは、それまで韓国内では、日本は朝鮮半島の統一国家が強大化するのを恐れ、半島の分断固定化を望んでいるという見方が多かったからだ。国基研の提言は「統一」を支持しただけでなく、韓国による自由統一、すなわち韓国主導の自由民主主義体制下での統一に対する支持を明確にしたから、これら専門家に大いに歓迎されたわけである。

実は韓国では、統一の手順をめぐり国論が分裂している。金大中、盧武鉉と2代続いた10年間の左翼政権時代に力を得た親北勢力は、金正日政権との連邦制を目指して活動している。大多数の国民は、多額のコストや戦争の恐怖などのため統一問題を先送りしようとしている。一部専門家の中には、金正日政権が倒れて「親中改革開放政権」ができれば南北の経済格差が縮まり、将来の統一コストが減るなどという主張もある。北朝鮮崩壊後に直ちに吸収統一となると韓国の負担になるので、相当期間、北朝鮮地域を国際管理下に置くという議論もある。

しかし、国基研代表団が会見した国家安保戦略研究所の研究者は、提言が定義した急変事態、すなわち独裁者金正日労働党総書記の死後、北朝鮮国内の統制が取れなくなる混乱状態となれば、「自由民主主義こそ北朝鮮住民の生活を保障する唯一の道」であり、「米日中ロの協力を引き出しながら韓国主導で統一を進めるべきだ」と述べ、韓国による自由統一が最善と論じた。

NDIの金院長も「急変事態により政府と軍が崩壊する段階になれば、韓国の目標は自由統一となる」と語り、「韓国が自由統一の覚悟を明確に表明すれば、各国はついてくる」と中国を含む関係国からの支持取り付けに自信を示した。

韓国側専門家の最大の懸念は、国基研と同じく、北朝鮮の急変事態に中国軍が介入し、中国に従順な「従中政権」を樹立することだった。国防大学安保問題研究所の軍事問題専門家は「中国は必ず介入する」と言った。同研究所の北韓問題研究室の関係者も「国基研提言が指摘するような(国内の統制が取れない)最も深刻な事態になれば、中国の介入は不可避と思う」と述べた。崔鍾澈(チェ・ジョンチョル)同研究所長は「中国は介入するとの見方で大半が一致している」と総括した。

国基研を代表して田久保副理事長も、中国が介入する口実は、①北朝鮮内部からの要請②難民対策など人道上の理由―など幾つもあり、北朝鮮を中国の影響下に置くという国益の擁護のため介入しないとは考えられないと指摘した。

これに対して、韓国統一研究院(KINU)の徐載鎮(ソ・ジェジン)院長は、北朝鮮崩壊に備えた米韓連合軍の「5029」計画に基づき、米軍は北朝鮮の核兵器を管理下に置くために、韓国軍は治安回復のために、それぞれ北進することになっていると説明するとともに、「中国軍が介入する場合、米軍との衝突を覚悟しないといけないので(介入の決定は)容易でない」と語り、中国が介入を見送る要因もあるとの見方を示した。

注目されたのは、国基研との討論に参加した一部の専門家から、自衛隊を中国の軍事介入への牽制に利用するという大胆なアイデアが示されたことだ。ある専門家は、北進する韓米軍と、国連の承認を得ずに一方的に越境してくる中国軍がそれぞれ平壌占領を試みるという、緊迫した事態になる可能性があると指摘し、「日本の役割は韓国軍による北朝鮮占領を支持し、中国軍の撤退を要求することだ」と述べた。その際、「日本は自衛隊の派兵を示唆して中国軍の撤退を誘導するのも手だ」と提案した。さらに、「韓国は中国の北朝鮮支配を嫌うので、この提案が韓国内で受け入れられる可能性はある」と付け加えた。

同席した韓国戦略問題研究所の権博士は「(自衛隊を実際に派遣するというより)中国軍が介入する兆候が出てきた時に、観測気球として自衛隊派兵の可能性に言及するのが好ましい」と説明した。

一部の専門家はまた、米中間では、北朝鮮に核兵器を廃棄させる見返りに、従中政権の樹立を容認する密約が結ばれる可能性があると警戒し、「そうした密約は韓日の利益に反すると明確に表明し、密約を防ぐことも日本の役割だ」と論じた。

一方、権博士は、米中が北朝鮮の核兵器廃棄でなく第3者への拡散防止で手を打つという最悪の事態を防ぐためのカードは「日本と韓国の核武装だ」と言明した。同博士は「民間の研究機関や言論人がときどきそのような声を上げることは大切だ」と語り、米中に北朝鮮の核兵器廃棄に真剣に取り組ませるため、日韓が少なくとも民間レベルで核兵器保有を主張すべきことを提唱した。傾聴に値する意見であり、櫻井理事長は「韓国との冷静な話し合いの中で、日本の核武装を議論したい」と応じた。

KINUの若手研究者は、国基研のような民間研究機関だけでなく、「日本政府も、韓国主導の統一こそ日本の利益に合致すると宣言すべきだ」と訴えた。同研究者は、急変事態における日本の協力について、韓国民の感情を考えるなら「目に見えない形」で静かに助けてくれるのが好ましいと論じ、「そうすれば、いずれ韓国民の対日感情は変化する」と予想した。さらに、「どの国が統一を支持したかで、統一後の韓国の最大の友好国が決まる」と述べ、「統一は韓日協力の新たな地平を開く契機になる」と付け加えた。KINUの徐理事長も同意見で、「日本が韓国主導の自由統一を官民挙げて支持すれば、韓日の歴史問題は克服できる」と語った。

韓国戦略問題研究所の権博士らは、北朝鮮の急変事態や核問題での日韓協力の在り方を話し合うため、日韓戦略対話の重要性を一様に唱えた。戦略対話には、政府レベルの「トラック1」、民間専門家レベルの「トラック2」、政府関係者と民間専門家が参加する「トラック1.5」などさまざまなやり方がある。国基研は民間の立場から戦略対話の重要性を認識し、それを提言にも盛り込んでおり、近く韓国の研究機関との民間戦略対話を具体化する方針である。

北朝鮮急変事態における自衛隊の役割に関しては、韓国側からもちろん慎重な意見も出た。国基研提言は付属の「詳論」で、急変事態の際、北朝鮮になお残る日本人拉致被害者を救出するため、自衛隊輸送機の派遣も検討するよう提唱している。邦人救出目的による自衛隊機派遣の是非について韓国側に尋ねたところ、国防大学安保問題研究所の崔所長は、①韓国内であれば韓米が日本人を保護できる②人道目的で自衛隊輸送機が北朝鮮へ飛ぶことには反対できない③自衛隊の「上陸」なら「国民感情」が出てくるかもしれない―と答えた。自衛隊輸送機の北朝鮮入りを容認するのは前向きな姿勢だが、拉致被害者の捜索など自衛隊員の地上での活動までは受け入れられないということのようだ。

一方、鳩山政権が未熟な政策運営で日米関係を戦後最大の危機に陥れたことに関しては、李明博大統領の側近で与党ハンナラ党の李春植(イ・チュンシク)国会議員が、沖縄の普天間米海兵隊飛行場のグアムへの移転に反対する立場を明確にした。「グアムに移転すれば、朝鮮半島の有事の際に対応に時間がかかる」という理由だ。しかし、同議員は、新しくできた鳩山政権と関係を構築しなければならない時期に、韓国が正面から鳩山政権に反対を表明することは「重荷」だとし、「6カ月間は言いたいことも自制する」と述べた。韓国政府からも、意見表明は少し待つようにと言われているという。


与党ハンナラ党の李尚紋国会議員(中央)と会見

また李議員は、李大統領に対して北朝鮮が南北首脳会談を提案してきたという内幕を明かした。同議員によると、韓国としては、北朝鮮の核廃棄が議題に入るなら首脳会談に応ずる用意があるが、北朝鮮が「核問題は米国と話し合うので、南北首脳会談の議題は経済支援問題」と言ってきたので、会談の開催を断ったという。

このほか、過去数年間に韓国入りした脱北者から最近の北朝鮮情勢について話を聞いた。ある脱北者は「金総書記が09年4月までに脳卒中の発作を3回起こし、あと2~3年しか生きられない」という情報を軍関係の別の脱北者から得たことを明かした。ただ、韓国当局者は「確認された発作は(08年8月の)1回だけ」と語り、この情報を確認しなかった。

さらに脱北者たちは、①09年12月の貨幣改革以降、北朝鮮では中朝国境の警備が厳しくなったものの、警備兵にわいろを使えば脱北できる(ただし、必要なわいろの額は5年前に比べ10~15倍に高騰した)②北朝鮮のテレビのチャンネルは固定されているものの、周波数を微調整すれば韓国のニュース番組が見られる―ことなどを紹介し、北朝鮮の統制の緩みが進んでいる実態を明らかにした。(了)