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2019.07.12 (金) 印刷する

「欧米からみた神道 ~ ラフカディオ・ハーンがとらえた先祖崇拝の意味」 牧野陽子 成城大学教授

成城大学の牧野陽子教授は、7月12日、定例の企画委員会におけるゲストスピーカーとして、明治期にわが国の伝統や文化を理解し海外に紹介したラフカディオ・ハーン(小泉八雲)の業績について語り、櫻井よしこ理事長をはじめ企画委員らと意見交換した。

19.07.12

明治期に来日した欧米人が、日本のことを研究する上で最初に取り組んだのは、神道の研究であったという。なぜなら、彼らは国の歴史・文化の基礎は宗教にあると考えていたから。彼らの神道観は、たとえば、英国人バジル・ホール・チェンバレンが著書『日本事物誌』(1890年)の中で、「神道には、まとまった教義もなければ、神聖な書物も、道徳規約もない」と表現し、また英国公使館のウィリアム・アストンは「神々のイメージが希薄で、道徳的規範もない。」(『神道』(1905年))として、宗教としての資格がないと断じる。

多くの西洋人が、このように神道に否定的で、価値を見出さなかったのに対し、ラフカディオ・ハーンは異なった見方をした。彼の神道理解の方策は、書物からではなく人々の生活の中に入っていくことで神道の宗教的感覚をとらえようとした。

「日本文化の根幹をなすのは神道」であり、「日本人の精神性の根幹には祖先信仰」があり、さらに「家と地域と国家における祖先崇拝こそが、神道の精髄のすべて」(『日本 解釈の試み』(1904年))であるという。そのことが、古来より日本の風土に根付いて伝承されてきた、神と自然と人間が混然一体となった神道の概念を形成すると説く。ハーンは「死者はみな神になる。All the dead become gods」と言い、万物の創造主である唯一絶対の神を崇めるキリスト教的視点で神道をとらえることは困難だとした。

神道の特徴の一つに、自然との一体性もあげる。神社についてハーンは、「純粋な神道の社は(中略)岩や樹木と同じ自然の一部のように見え(中略)大地神がそのまま姿を現したように思える」(『仏の畑の落ち穂』(1897年))と表現し、神社が質素な造りにもかかわらず自然との親和性を貴ぶ様を、好意的にとらえた。

牧野教授は最後に、神道に対し辛口なチェンバレンでさえ、我が国皇室は「世界でもっとも古いものとして誇り高き存在」(『日本事物誌』)なのだと、その比類なさを認めているという事実にも触れた。ただし、ハーンがとらえた神道観は現代でも少数派で、欧米は言うに及ばず、わが国の学会でもチェンバレンたちに近い考えが多数派を占め、神道を否定的に見る傾向が強いのは如何なものかと疑問を投げかけた。

牧野陽子教授は1953年東京生まれ。東京大学教養学部教養学科イギリス科卒、同大学大学院人文科学研究科比較文学比較文化専攻博士課程修了、博士(学術)、1983年より成城大学。専門は比較文学、比較文化。研究内容は、主に柳宗悦やラフカディオ・ハーン、ウィリアムグリフィスの思想や文学を研究。主な著書に、『神道とは何か 小泉八雲のみた神の国、日本』(2018年、錦正社、共著、日英対訳)、『〈時〉をつなぐ言葉 ― ラフカディオ・ハーンの再話文学』(2011年、新曜社、第11回島田謹二記念学藝賞、第34回角川源義賞 受賞)、Lafcadio Hearn in International Perspectives, ed.by S. Hirakawa, Global Oriental, Folkstone Kent, 2007. (文責 国基研)