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2020.03.06 (金) 印刷する

「人口問題・日本が直面する少子高齢化に対する処方箋」 工藤豪・日本大学文理学部非常勤講師

工藤豪・日本大学文理学部非常勤講師は3月6日、国家基本問題研究所企画委員会において、『人口問題・日本が直面する少子高齢化に対する処方箋』と題し、少子化をいかにして克服するかなどを中心に語り、櫻井よしこ国基研理事長をはじめ企画委員らと、意見交換をした。

20.03.06

人口減少と人口高齢化をもたらす「少子化」とは、出生率が人口置換水準(合計特殊出生率2.07、人口が長期的に増減しない)を持続的に下回っている状態だとする。このような状態は、1970年代半ばに始まったとされ、同時期にわが国の未婚率が上昇を始め、その傾向は継続中である。

少子化対策としてわが国は、4期にわたり支援策を展開してきた。第1期は、1990年代からエンゼルプランなどの保育の量的拡大策がとられ、第2期は、2003年の「少子化社会対策基本法」を中心に、「働き方改革」を課題とした。第3期は、2009年の「子ども手当」のように「子ども・子育て支援」の一環として待機児童の解消が課題とされた。第4期は、2013年以降で、ようやく「結婚・妊娠・出産」支援が重点となった。

それでもなお、わが国では少子化を克服する兆しが見えない。それは、少子化の主な要因が未婚化であるにもかかわらず、有効な対策がなされていないからだ。わが国には、他国と違い結婚と出産の強い結びつきがみられ、それは婚外子の率が諸外国に比べ著しく低い状況からも伺える(日本2.4%に対し米国40.6%。仏55.8%、英47.6%など)。

わが国の少子化を克服するためには、未婚化対策(結婚支援)を充実させることが重要だ。たとえば、統計的には20代前半の若者は、20代後半までの結婚を希望しているが、その希望を実現できる支援が必要。しかし、現状の少子化対策予算は「子育て支援」と「働き方改革」に向けられており、「結婚・出産」に向けられる予算は限られている。

加えて、結婚や出産に関する価値観へ働きかける施策に対し、個人主義やジェンダーに立脚するリベラルな考えの批判的議論が展開されてきた点も、未婚化を進める遠因になったともいえる。例えば、「婚活メンター」への批判や、「ライフプラン教育」への批判である。このような批判に対しては、少子化克服は社会保障制度を安定させ、結局は個人の幸福につながるということへの理解を広める必要がある。

最後にまとめると、日本が直面する少子化の要因は未婚化であり、その具体対策として、①意欲の高揚、②経済的支援、③出会い支援、などが必要だ。かつて結婚に対する国民意識は「して当然」だったが、現代は価値観が多様化している。これに対し、「結婚する方が幸せになるよ」と、現代に適した形で啓蒙することが必要とされる。そのためには、具体的で大胆な経済支援策を打ち、20代でキャリア形成途上であっても経済的に結婚可能な社会にすべきである。出会い支援については、地域の特性に適した方策が必要である。例えば、従来から女子の未婚率は西日本に多く、男子は東日本、東北部に多い。自治体による取り組みも、地域を跨ぐという発想が求められる。

【略歴】
工藤氏は1977年、静岡県出身。日本大学大学院博士課程を修了(社会学博士)。日本大学文理学部、鶴見大学文学部、埼玉学園大学人間学部などで非常勤講師を務め、専門社会調査士の資格をもつ。主な研究テーマは、結婚の地域性、家族の地域性、少子化の要因と対策など。著作『少子高齢化社会を生きる 「融異体」志向で社会が変わる』(人間の科学新社、2016年、共著)がある。(文責 国基研)