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2020.07.17 (金) 印刷する

「古代・中世から見た現代中国」 ―『柏楊と資治通鑑』を中心として ― 德田直史氏

 德田直史氏は7月17日、国家基本問題研究所企画委員会において、中国歴史書「資治通鑑」を通して見た中国について、櫻井よしこ国基研理事長をはじめ企画委員らと、意見交換をした。

漢学者の家系に生まれた德田氏は、漢文書籍に囲まれ育ち、2007年に大学院で「作家柏楊と『資治通鑑』」について修士論文としてまとめた。これを機に資治通鑑を原典から全訳することを志したとのこと。今回は、台湾の作家柏楊が著した資治通鑑を中心に、現代中国にも通底する資治通鑑の見方を提示した。

資治通鑑の読み方

資治通鑑は古代中世の編年体(年代記)で著された政治軍事史で、北宋の司馬光らが編纂した戦国時代から五代十国までの歴史書(前403年から959年の1362年間)。司馬光は遍く史料を収集し治政に役立つものを選び取り全294巻を完成させた。

年代記として見ると、秦代には郡県制による中央集権体制が敷かれるが、始皇帝が没すると地方の諸侯が力をつけ、前漢には郡国制による中央から離れた地方分権制度が敷かれる。これなどは、現代の「一国両制」に通じるものがある。

官僚制度についての記述では、封建王朝における官僚は公金官物の横領や贈収賄が、そして将軍は反乱を起こすことが描写される。これを防ぐため、歴代の中国王朝には監察組織が縦横に敷かれていたが、現代中国には政治局員に対する中央規律委員会以外何もない。腐敗は起こるべくして起こる。

軍事組織については、漢代より辟(幕僚を招聘する制度)の記述がある。これは現代中国でも解放軍で正規採用以外に軍人の員数が増えていく原因になっている。

反共の作家・柏楊と資治通鑑

柏楊は1920年、河南省出身で、共産中国が成立後に台湾に逃れ、1950年代から執筆活動をし、中国社会の闇を描いた報道文学や歴史書など多彩な創作活動で反共作家として知られる。

1960年代半ばから大陸で文化大革命が始まると、それに対抗する台湾では蒋介石が中華文化復興運動を進め、同時に独裁色を強める。そのような中、柏楊は「ポパイ事件」で蒋介石父子を嘲笑したという理由で投獄され、獄中で資治通鑑に出会う。

柏楊は、資治通鑑の中に、司法による拷問、事実の捏造、自白の強要、欺瞞、専制政治の暴虐、圧政と庶民の悲劇を発見し、現代の中国・台湾と変わりないことに衝撃を受ける。この経験から、柏楊は中国文化を「漬物甕」と呼んだ。中国文化は、孔子以降ただ一人の思想家も生まず、孔子の注釈を繰り返すのみで、なんら独立した思想を持たなかった。なぜなら文化がそれを許さなかったからだ。この文化に決定的に欠けているのは、人間を大切にするという人権の概念だという。

なぜ中国の為政者は横暴なのか

北方民族由来の中国の諺に、「水に落ちた犬は叩け」とある。戦に負けることは、即ち天から見放されることで、だから何をしてもよいとなる。歴代為政者も同様の思想を持ち、天下を取れば、横暴になることは定めなのかもしれない。

資治通鑑を読み進めると、経書(四書五経)に対応する緯書(経書を神秘主義的に解釈した書)があり、それが縦糸、横糸をなして漢代以降の治政に影響を及ぼしていることが分かる。

この流れは現代にもつながる。かりに、現代中国に大きな国難が続いたら、共産党は天から見放されたと人民が理解するに違いない。

【略歴】
1950年、神奈川県生まれ。東京外国語大学中国語科卒業。2007年、杏林大学大学院国際協力研究科修了、開発学修士。翻訳業、中国歴史研究家。
訳書:『東周英雄伝』全三巻(鄭問画、講談社モーニングKC)、『中国人の死体観察眼(原題:洗冤集録)』(南宋・宗慈著、雄山閣出版)、『敦煌の夢(原題:敦煌之恋、魯迅文学賞受賞)』(王家達著、竹内書店新社)、『【徳田本】電子版 全訳資治通鑑』(アマゾンKindle)は現在第22冊・三国鼎立まで発行。著書:『中国4000年 弱肉強食の法則 ― 脅威の繁殖力の秘密』(講談社)

(文責 国基研)