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2021.02.05 (金) 印刷する

新型コロナの正体とワクチン戦争のゆくえ 森下竜一・大阪大学寄付講座教授

 遺伝子治療研究の第一人者でバイオ企業創業者でもある森下竜一・大阪大学寄付講座教授は2月5日(金)、国家基本問題研究所企画委員会において、櫻井よしこ理事長をはじめ企画委員らと意見交換した。

王冠(corona)の形状に似ているコロナウイルスは、一般に動物感染するが、人に感染するものもあり、SARSやMERSなど重篤な呼吸器症候群を引き起こすとして知られる。

今回の新型コロナ感染症は、潜伏期間が2日~14日、平均5日で、その後発症すると1週間程度風邪の症状が出る。8割の患者は軽症のまま治癒するが、残り2割は肺炎症状を引き起こし入院に至る。人工呼吸管理が必要となり、約2~3%は致命的となる。

この感染症が厄介な点は、インフルエンザのように熱が出てから他者に感染するのではなく、症状が出る前に感染する。つまり本人の自覚無くウイルスをバラまいてしまうのだ。したがって、流行を抑えるためには人の移動を抑制することが有効な手段の一つということになる。

当初、欧米系人種より日本人の感染率が低いのでは、という一部報道があった。だがダイアモンド・プリンセス号の教訓がこれを完全否定した。つまり、感染率や死亡率に人種の差異はないということが統計的に判明した。他方、日本人はハグをあまりしない、室内で靴を脱ぐ、あるいはトイレ用のスリッパを使うといった欧米との生活習慣の違いが、感染に影響するようだということも分かった。

さて、現時点において新型コロナウイルス感染症に対する特異的な治療薬はないため、エボラ治療薬や抗インフルエンザ薬などを承認して使用せざるを得ない。

予防が唯一の対抗手段で、そのためのワクチンにはいくつかの種類がある。ウイルスワクチンというウイルス自体を弱体化または不活化したもの、ウイルスベクターワクチンというアデノウイルスなどを応用したもの、蛋白質ベースのワクチン、核酸ワクチン(DNA、RNAの形式)などである。

現在、ワクチン供給で先行するのは米英中露という国だが、従前から国家戦略として、軍主導の開発が功を奏したと見ることもできる。例えば米国はバイオテロの教訓としてワクチン開発に予算措置をとってきたし、中国は人民解放軍が対生物兵器の研究に取り組んできたと言われる。

わが国は、民間主導での自主開発が主体で、これでは外国とのワクチン競争に勝てるとは到底思えない。またワクチン承認には数万人の海外治験が必須であり、国産ワクチン開発には不利な条件となっている。さらに、ワクチンの研究、開発、製造、供給には、厚生労働省、経済産業省、運輸省など多くの省庁が関わる必要があるにもかかわらず一元管理されてこなかった。

したがって、縦割り行政を打破しこれを統括する米国のCDC(疾病予防管理センター)並みの組織と、強力なリーダーシップが切望されるが、果たしてわが国は現状のままでワクチン戦争に勝利できるのだろうか。甚だ疑問である。

【略歴】
1961年、岡山県出身、医学博士。1987年大阪大学医学部卒業、1991年同大学医学部老年病講座大学院卒業、同年米国スタンフォード大学循環器科研究員等を経て、1998年大阪大学助教授、2003年から同大学大学院臨床遺伝子治療学寄付講座教授。政府の役職として知的財産戦略本部員、内閣府規制改革会議委員、健康医療戦略室戦略参与などを歴任。

著書に、『どうする⁉ 感染爆発‼ 日本はワクチン戦略を確立せよ』(共著、ビジネス社、2020年)、『アルツハイマーは脳の糖尿病だった』(共著、青春出版、2015年)など多数。

(文責 国基研)