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2021.02.12 (金) 印刷する

日本におけるコロナ対策の問題点 大木隆生・東京慈恵会医科大学教授

血管外科の世界的権威である東京慈恵会医科大学の大木隆生教授は2月12日(金)、国家基本問題研究所企画委員会において、櫻井よしこ理事長をはじめ企画委員らと意見交換した。

新型のコロナ感染症に関する論文が、昨年1月24日の医学雑誌「ランセット」に掲載された。その時点で、現代版スペイン風邪のようなパンデミックになる危険性が予想された。実際、台湾では素早くロックダウンの措置が取られた。だが、日本や欧米では昨年2月まで武漢からの入国が自由であり、その結果感染拡大を招いたという側面は否めない。

以来わが国は、どのような方針を採ってきたか。中国や台湾などのように鎖国的に封じ込め0コロナを目指したのか。欧州のように都度ロックダウンをして抑制しようとしてきたのか。コロナと共存しながら経済活動をしてきたのか。実は、政府や経済界、メディアなどでも、腰が定まっていなかったということが問題の第1点である。

さらに、わが国のコロナ対応では、科学的な根拠を欠く議論が多くある。例えば、当初は全国で数百人程度の感染者数でも、医療崩壊の瀬戸際などと、メディアが過激に煽るような報道を繰り返していた。昨年5月の東京の1日の感染者数は一桁、死亡率も罹患率も欧米の1/30程度であった。しかし欧米のロックダウンの様子を流し続けた。また、国として医療崩壊の危機にないにもかかわらず、一部の医療逼迫病院だけを取材し報道する。これでは単に人心をかき乱すことが目的のように感じる。

日本のコロナ対応の大きな問題は、「蛇口と受け皿」の関係性を考えていないこと。緊急事態宣言を出し「蛇口」を閉じればコロナ感染者という水は流れないし、コロナ患者を受け入れる「受け皿」が十分あれば安心できる。問題は、日本は蛇口を閉じることばかりで、受け皿を大きくすることが出来ていない。日本の受け皿はお猪口程度で、コップやバケツにするという発想が少ない。その点、欧米の頑張る様子は参考になる。

例えば日本と欧米では、医師の持つ挙国一致というメンタリティーの制度化に違いがある。欧米では数少ない感染症医師の下、外科や内科の医師が手伝い、眼科や皮膚科の医師は受付や配膳などに回るといった事例もある。日本国内にも、無給でもコロナ医療にあたりたいと考える医師はいる。ただ、それを統括して役立てる仕組みがわが国の既存の制度にはないのである。

今後わが国は、客観的データに基づき0リスクを求めるのではなく、益と害のバランスをとった持続可能な政策を実行していくことを期待したい。

【略歴】
高知県出身、1987年、東京慈恵会医科大学医学部卒業、1993年同大学院卒業(医学博士)、1989年に東京慈恵会医科大学第1外科に外科医として入局、以来、1995年に米国アルバートアインシュタイン医科大学モンテフィオーレ病院勤務などを経て、現在、同米医大外科学教授、東京慈恵会医科大学血管外科学教授、同医大外科学講座統括責任者など多数兼務。高知県観光特使でもある。

2006年、『News Week Japan』誌で「世界で尊敬される日本人100人」に選出、また2009年にはNHK番組『プロフェッショナル仕事の流儀』などメディア出演多数。主な著書は『医療再生 日本とアメリカの現場から』(集英社新書、2016)の他、医学専門書など。

(文責国基研)