防衛研究所理論研究部社会・経済研究室長の塚本勝也氏は2月12日(金)、国家基本問題研究所企画委員会において、米国の国防高等研究計画局(DARPA)について、櫻井よしこ理事長をはじめ企画委員らと意見交換した。
米国の国防高等研究計画局(DARPA)とは、1957年に当時のソ連が人工衛星を米国に先駆けて打ち上げたスプートニクショックを契機に翌年設立され、これまで先進的な技術開発を先導してきた。
DARPAの任務は「国家安全保障のための核心的な技術への重要な投資」で、6つの部局に約230人の職員がいる。予算規模は2020年度約35億ドルで、これは国防省の科学技術予算の約4分の1を占める。
DARPAは自前の研究者や研究設備を持たず、約100人のプロジェクトマネージャーが政府機関、学術研究機関及び企業と協力しつつ、約250のプログラムを進める。軍の研究機関から独立することにより、先入観無く新たな能力を追求するものである。
最大の特徴は、失敗を恐れず、実現困難な技術的課題にあえて挑戦する組織文化が存在すること。これにより、革命的な変化、すなわちイノベーションを求めてハイリスク・ハイリターンの研究が実施されてきたのである。
例えば、インターネット、ステルス技術、GPSやドローンは成功例として挙げられる。反面、敵核ミサイルを核爆発によって人工的に作った電子帯で無力化するアーガス作戦は失敗した。国家航空宇宙機X-30は開発遅延とコスト超過で中止にいたったという例もある。
現在、世界的に注目されるバイオ技術分野へも、冷戦後の早い時期から進出している。イラクの生物兵器、オウム真理教の炭疽菌テロ未遂、9.11テロのすぐ後に発生した炭疽菌テロ事件などで、脅威が顕在化したことが契機になった。生物兵器対策の一環として、DARPAはこれまで実用化されてこなかったDNA/mRNAワクチンに注目し投資してきた。その成果が今回のコロナ危機に役立っていることは誰もが認めるところである。
リスクを許容し投資するところにイノベーションが生まれる。わが国も、革新技術を獲得する上で、ある程度のリスクは許容するというDARPAに見習うところが大いにあるのではないか。
【略歴】
筑波大学卒業、青山学院大学大学院を経て、フルブライト奨学生としてタフツ大学フレッチャー法律外交大学院に留学、博士課程修了(Ph.D.)。現在、防衛研究所理論研究部社会・経済研究室長。
主な著書は『戦略原論 軍事と平和のグランド・ストラテジー』(共著、日本経済新聞出版、2010年)、『エアーパワー その理論と実践』(共著、芙蓉書房出版、2005年)など。
(文責 国基研)