田村秀男・産経新聞特別記者は10月8日、国家基本問題研究所企画委員会に来所し、『慢性化する中国金融危機』と題して語り、櫻井よしこ国基研理事長をはじめ企画委員らと、意見を交換した。
【概要】
「収奪者が収奪される。資本主義最後の鐘が鳴る。」資本論の末尾にあるこの言葉は、マルクス・レーニン・毛沢東主義の原点である。果たして習近平政権が掲げる「共同富裕」が「最後の鐘」になるのだろうか。
金融市場は国際市場である。中国式国家資本主義が行き詰まりを見せると、世界に波及する。恒大集団(中国不動産大手)の巨額債務返済不安は中国金融の慢性的危機を示すと同時に、国際的な不安を誘発する。
当面は国内の信用を強権で回避する習近平政権だが、今後の展開には大きな不安が残る。なぜなら、共産党の統制から外れる対外債務が膨張を続けているからだ。
恒大集団の負債額は円換算で約33兆円、これは中国の民間負債総額約4300兆円の0.75%に過ぎない。それなのに、これだけ恒大問題が騒がれるのは、他の不動産大手が巨額の債務返済を迫られているからに他ならない。習近平政権は手っ取り早い経済成長戦略として、不動産投資による住宅ブームに依存してきたが、ここにきてツケが回って来たとも言える。
加えて2012年に習近平政権が誕生して以来、国内経済を押し上げてきた固定資産投資の効果も見逃せない。一党独裁体制を最大限利用して対GDPで最大8割をあてる強引な政策を遂行した。いわゆる上物(建築物や道路などのインフラ)である固定資産は、結局セメントの塊であり、付加価値が生まれる余地が少ない。つまり上物を作りすぎた結果、不良債権として残ることになったのだ。同時に、中国の国内投資を支えるための対外金融債務が嵩み続け、限界に近い状況となっている。
このような状況は、我が国の平成バブル崩壊や、2008年の米国リーマンショック時に似ている。西側の基準ではバブル崩壊の状態であるにもかかわらず中国バブルは崩壊しない。これは政府による強力な下支え、つまり不動産相場の下落を抑え、金融機関に指示しカネの流れを統制してきたためである。
しかし、この中国の慢性的な金融危機は、国際化の中で矛盾を抱えながらさらに広がるだろう。中国の金融不安は米国金融市場とも連動するが、米国は最近、対中宥和の姿勢を示し始めている。米国のために米国自身が中国金融市場を下支えする構図が生起しはしないか。
我が国の経済安全保障の観点から、どのように対応すべきか。いま、深い洞察と素早い行動が必要とされる。
【略歴】
昭和21(1946)年、高知県生まれ。1970年、早稲田大学政治経済学部卒、日本経済新聞社に入社。ワシントン支局長、米アジア財団上級フェロー、香港支局長、編集委員を経て、2006年より現職に加え、編集委員、論説委員も兼務する。その他、早稲田大学大学院経済学研究科講師、早稲田大学中野エクステンション・スクール講師を兼務する。
最近の著書に、『景気回復こそが国守り 脱中国、消費税減税で日本再興』(ワニブックス)、『日本経済は誰のものなのか?-戦後日本が抱え続ける病理』(共著、扶桑社)、『習近平敗北前夜 脱中国で繫栄する世界経済』(共著、ビジネス社)、『中国発の金融恐慌に備えよ!』(共著、徳間書店)など多数。(文責 国基研)