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2022.09.12 (月) 印刷する

『ジョブ型雇用社会とは何か』~ ジョブ型雇用の誤解とメンバーシップ型雇用の矛盾 ~ 濱口桂一郎・労働政策研究・研修機構研究所長

9月9日、濱口桂一郎・労働政策研究・研修機構研究所長が国基研企画委員会でゲストスピーカーとして講話し、櫻井よしこ理事長をはじめ企画委員らと意見交換をした。濱口所長はわが国の雇用契約の実態や労働政策などを含めて語った。講話の概要は以下の通り。

【概要】
ここ数年ほど「ジョブ型」という言葉が流行している。これまでの日本の仕組みは古臭いとして、新商品としてのジョブ型を売り込もうとしているかのようだが、実はジョブ型こそ古臭い。産業革命以来の近代社会の企業組織はジョブ型であった。高度成長期の日本の労働政策(国民所得倍増計画など)もジョブ型志向と言える。

そもそもジョブ型とは、19世紀英国のトレードユニオン(職業組合)に由来し、20世紀アメリカで完成した仕組みで、企業側がその事業をジョブ(職務)に分割し、そこに労働者を当て嵌めるというシステム。従って、雇用契約に労働者が遂行すべき職務が明記される。逆に日本では雇用契約に職務は明記されず、使用者の命令によって定まる。職務ではなく成員(メンバーシップ)として雇用されるため、これをメンバーシップ型と称する。就職してから様々な配置を経験して能力を伸ばす方式である。

雇用の入口と出口でいうと、就職・採用が入口で、解雇・退職が出口にあたる。

ジョブ型の入口(採用)は、企業が必要の都度行い、その際職務を遂行し得る能力を証明する職業資格の有無を問う。そのため、無資格者には不利に働く。他方、メンバーシップ型の日本では新卒者を一斉に採用する。新卒学生は就職面接で自分は「何ができるか」ではなく「できるようになる素材」であることを強調する。これは大学で学んだ教育内容が就職後の職業生活に殆ど意義を持たない仕組みがあるからで、メンバーシップ型企業がそれを要求するのである。

確かに同じ新卒採用でも文科系学生と技術系で違いはある。特に医療系はかなりジョブ型に近い。しかし実態として文科系の学生は殆どメンバーシップ型で就職している。

ジョブ型の出口(解雇)では、ジョブの消失を理由とする整理解雇は最も正当な解雇だが、メンバーシップ型の日本では極悪非道となる。能力不足解雇も、ジョブ型ではできると言って採用したのにできない奴が対象だが、日本では新卒が最初はできないのは当たり前で、それを指導するのが上司の務め、逆に長年勤続した中高年が無能呼ばわりされる。

そもそも、ジョブ型では職務評価により、座る椅子(ジョブ)に値段を付けるが、日本では人に値段を付ける仕組み。これは戦時下の賃金統制令に始まり、戦後労働組合が年齢と勤続年数による生活給を確立した。ある時期まではこのシステムは有効であったが、中高年の賃金が高くなりすぎ弊害となったため、成果主義と称してジョブ型のつまみ食いをしているが、却って弊害が大きい。

そもそもジョブ型、メンバーシップ型のどちらが絶対的に良いとか悪いというものではない。ただ、時代環境や社会状況によってメリットとデメリットが現れる。高度成長期にはメリットがあったが、過去30年間はメンバーシップ型のマイナス面が露呈している。

【略歴】
1958年大阪府生まれ。1983年東京大学法学部卒業後、労働省に入省、欧州連合日本政府代表部一等書記官、衆議院調査局厚生労働調査室次席調査員、東京大学客員教授、政策研究大学院大学教授を経て、現在、独立行政法人労働政策研究・研修機構労働政策研究所長。専門は労働法政策。主な著書は『ジョブ型雇用社会とは何か 正社員体制の矛盾と転機』(岩波新書)、『働き方改革の世界史』(ちくま新書)、『働く女子の運命』(文春新書)、『日本の雇用と中高年』(ちくま書房)など、多数。

(文責 国基研)