7月12日(水)、国家基本問題研究所は、定例の月例研究会を東京・内幸町のイイノホールで開催した。今回はインドから国際戦略研究の第一人者であるブラーマ・チェラニー名誉教授を招き、「激動する世界の中の日米印関係」をテーマに、対中国という日・米・印共通の問題を議論した。
登壇者は、インド政策研究センターのブラーマ・チェラニー名誉教授、日米協会会長の藤崎一郎元駐米大使、国際基督教大学の近藤正規上級准教授の3名で、司会は、櫻井よしこ国基研理事長が務めた。
外気温が鰻登りに暑くなる中、登壇した3名から熱い発表が行われ、引き続き、来場した参加者を含め、忌憚のない意見交換が行われた。その概要は以下のとおり。
【概要】
ブラーマ・チェラニー名誉教授:
国際社会の現状は「世界政府は存在しない」ということ。国際法というのは、弱いものに強く強いものに弱いという特徴があり、そのような世界を支配するのはリアリズムである。その中でウクライナ戦争は国際社会に大きな影響を及ぼしている。ロシアと西側は共に多大な犠牲を払う反面、中国は漁夫の利を得るのである。
中国の戦略は①ステルス(隠密)②デセプション(欺瞞)③サプライズ(不意打ち)で、1つの攻撃を100に分け、真綿で首を絞める(slow squeeze)ように侵攻する。これを「茹でガエル戦略」ともいう。やられる側が気付く時はすでに手遅れになっている。
安倍元総理が提唱した「自由で開かれたインド太平洋」を守るため、関係国は知恵を絞る必要がある。ただしインドの非同盟中立は不変で、いずれの側にも与しない。国際関係はバランスが重要である。
藤崎一郎元駐米大使:
ワシントンで行われた先の米印首脳会談で、バイデン大統領がモディ首相を歓待した。インドはクアッドのメンバーでありながら上海協力機構(SCO)にも入っているし、人権の問題も抱えている、ということで米国内では反発の声も聞こえた。しかし米政権はインドを支える方向に舵を切った。それはインドが中露へ接近することを阻止するための選択である。
他方、SCO会合を主催してもその成果文書にはサインしない等、インドは強かなバランス外交を展開する。それを前提として日本はインドを過大評価も過小評価もしないことが重要。今後インドに期待するのは、G7の日本とG20のインドが互いに協力を深化させることで、例えば社会人や若手リーダーの交流で人的ネットワークを構築することも必要と考える。
近藤正規ICU上級准教授:
インドは経済成長を続け、国内総生産では世界5番目の経済大国にまで成長し、世界経済を牽引していると評されている。そのインドは、非同盟中立を標榜し中露との関係を継続する。加えてグローバルサウスのリーダーを自任する。これは、来春に総選挙を控えたパフォーマンスという一面の他、国際社会の中で微妙なバランスを保ち、自分の国は自分で守るという自立意識の表れでもある。
チェラニー教授の話にもあったが、インド軍は中印国境で中国軍と数万の兵力で対峙している。これが中国の台湾侵攻に一定の抑止力を及ぼしていると見ることもできる。日本にとってインドとの関係は重要である。
櫻井よしこ国基研理事長:
100年に1度と言われる国際社会の地殻変動を中露両国が引き起こしている。これを日本の力で立て直すという心構えを持たなければならない。そのためには、日本が憲法を改正し自力で軍事力や経済力を底上げし、日米印が協力してインド太平洋の安定を脅かす大きな波を乗り越えれば、明るい未来が見えてくる、それまでともに力を合わせて頑張ろうと来場者に訴えた。
詳細は後日、「国基研だより」や国基研ホームページで紹介する予定。
(文責 国基研)