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2023.07.14 (金) 印刷する

行き詰まる中国高成長モデルと習近平政権の人民元決裁圏拡大戦略 田村秀男・産経新聞特別記者

国基研企画委員の田村秀男・産経新聞特別記者は7月14日、国家基本問題研究所企画委員会で、人民元決裁の拡大を狙う習近平体制における中国経済などを語り、その後櫻井理事長をはじめ他の企画委員らと意見交換した。

【概要】
●行き詰まる中国経済

国際的危機のたびに中国経済は膨張を続けてきた。香港返還、米国同時中枢テロ、リーマンショック、新型コロナショックなどがあっても、国内総生産GDPは拡大を続けてきた。対する米国も経済活力は十分あり順調だが、日本だけが停滞し続けている状況である。

ただし、実質的に中国経済を牽引してきたGDPシェアで5割前後の固定資産投資が、不動産バブルが崩壊したため停滞しはじめた。そのせいで、実質GDPが下降局面に入ったとみられる。それと同時に都市部の若者の失業率が2割を超えるまでになり、大学新卒者の3人に1人は就職できない状況である。

日本は平成バブル崩壊のあと、デフレ圧力が強まり、経済の停滞期から抜け出せないが、中国も原因は違えども、似たような傾向にある。外貨準備高も下がり、人民元の対ドル相場も下がり、デフレ圧力が下がらない。

大きな曲がり角はウクライナ戦争だといえる。これにより海外からの対中投資が引き揚げ始める。すると外貨が増えないことでドルの裏付けがない人民元の発行が難しくなる。つまり中国がドル依存を続ければ、必ず行き詰まる構図である。結局、習近平政権としては、打開策として人民元決裁を増やさざるを得ないということだ。

中国の地方政府財政収入は土地関連が7~8割を占める。土地は共産党のものだから、地方政府が利用権(期限付き)を販売して収入を得てきた。ところが不動産バブル崩壊とともに、地方政府からの土地使用権収入が中央政府に入らなくなったのである。この不動産不況は中国の財政を痛撃している。

●中国は人民元決裁圏拡大を模索

中露の経済的協力関係を原油取引で見てみる。欧州の原油価格の指標であるブレント原油の国際相場に比べ、ウクライナ戦争以降、ロシアのウラル原油の価格は大きく値を下げた。その中で、中国がロシアからウラル原油を買う相場は、ブレント原油に近い価格で購入している。言い換えれば、中国がロシアの軍事費を賄っている構図になる。ロシアにとってまさに干天の慈雨ともいえ、中国の経済的影響力が確実にロシアを包みつつあることを示す。

人民元で売って、人民元で買うというのが人民元決裁だが、ウクライナ戦争後、その影響圏は拡大している。ただし、ロシアが人民元で代金を受け取り、香港市場で人民元取引を行っても、すぐにドルに交換され結局相場は下落する。まだ人民元決裁は定着していないといえる。

今年に入りグローバルサウスから脱ドル気運が出始めた。1月にはサウジ財務省がドル以外の通貨による貿易決済に言及。2月にはイラク中央銀行が、3月にはブラジルが、4月にはアルゼンチンが、対中貿易における人民元決裁を発表。

実態はまだ国際的決済通貨としての米ドルを脅かすまでには至らないが、このままグローバルサウスに人民元決裁が拡大すれば、同時に中国の政治的影響力も拡大していくことになると懸念される。

(文責 国基研)
 

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