9月29日、矢板明夫・産経新聞台北支局長が国基研企画委員会にてゲストスピーカーとして台湾報告を行い、櫻井よしこ理事長をはじめ企画委員らと意見交換をした。
矢板氏は駐在する台湾からの一時帰国で一年ぶりの来所。話題は多岐にわたり、簡潔ながらも鋭い視点で台湾を分析した。講話の概要は以下の通り。
【概要】
●最近の台湾の様子
外から台湾を見ると中国が今でも攻めてくるような感がある。しかし台湾国内は総統選の真っただ中で、内政問題で忙しく、大陸の出方には無頓着に近い。
例えばブラジルから輸入した卵の値段が高いのは、億単位の卵を扱う政府が入札した業者に不正があったのではないか、そのような問題は与党に打撃で、民進党の候補者頼清徳の支持率にも影響する、あるいは郭台銘候補(鴻海精密工業の創業者)の側近の一人である新竹市の女性市長に不祥事が起きた、など国際問題とは無縁の話題ばかりがメディアを賑わせている。これでは中国の脅威をいくら喧伝したとしても台湾国内では盛り上がらないだろう。
●選挙戦の様子
総統選挙は来年1月13日である。世論調査では現在、頼清徳副総統がトップの35~45%、2位が柯文哲民衆党党首、3位が国民党の侯友宜氏、4位に郭台銘氏がつける。頼清徳氏が今は優勢だが、他の3候補を一本化すると頼清徳氏を超える可能性があり、野党側にそのような動きもある。もし一本化できなければ頼清徳氏が下馬評通り勝利できると予想する。
前回の統一地方選のときは野党が圧勝した。総統選は地方選と違い投票率が上がる傾向にあり、上がれば与党有利になるだろう。
●頼清徳氏が不利になる可能性
蔣経国総統の後、台湾では8年ごとに国民党と民進党が交互に政権を交代している。8年経てば当然負の遺産がたまる。たとえば蔡英文総統は原発を0にすると公約したができていない。太陽光発電にかかる汚職もある。
蔡英文氏はもともと国民党の経済学者で中間層に強い支持基盤があるが、頼清徳氏の場合は、この中間層にあまり人気がないという弱点がある。またアメリカは学者の蔡英文氏を御しやすいと考えるが、独立派とされる頼清徳氏には不信感が拭えない。
●日台関係
最近の日台間は人的交流が増加してきた。8月に麻生太郎氏が訪台して台湾の防衛に言及した。甘利氏も訪台して、半導体のトップ企業と食事するなど、経済と科学技術の協力を話し合い、台湾経済界の期待感が膨らんだ。
他方、原発処理水の問題で台湾人は中国の宣伝戦に乗っているように見える。最近の世論調査でも日本産魚介類に60%が心配だと回答している。その原因は日本政府のPRが実際に目に見えないことにある。そもそも民進党政権は反原発なので、日本政府はもっと日本産魚介類の宣伝外交を展開しなければならない。これも情報戦である。
【略歴】
昭和47年(1972年)中国天津市生まれ。残留孤児2世として1988年15歳のときに帰国、1997年慶應義塾大学文学部卒、松下政経塾、中国社会科学院大学院を経て2002年産経新聞入社。2007年4月から2016年11月まで中国総局記者として中国に駐在したのち外信部次長、2020年4月から台北支局長。主な著書に『米中激突と日本の進路』(共著、海竜社)、『中国人民解放軍2050年の野望』(ワニブックス)、『習近平の悲劇』(産経新聞出版)など多数。
(文責 国基研)