エネルギー問題に詳しいトム・オサリバン氏は、11月17日、国家基本問題研究所において、櫻井よしこ理事長をはじめ企画委員に対し、ガザ地区の紛争が日本のエネルギー事情に及ぼす影響について述べ、その後意見交換した。
講話の概要は以下のとおり。
【概要】
日本が必要とするエネルギー需要の多くは、中東の化石燃料に依存している現状は否めない。10月7日のハマスによるイスラエル攻撃を端に発した中東情勢の不安定化は、石油価格の上昇を招いている。世界銀行の試算では、最悪の場合1973年のオイルショック時のように原油価格が75%高騰すると注意を促している。
中東の化石燃料を輸送するアラビア半島周辺の海上チョークポイントは、ペルシア湾とインド洋を結ぶホルムズ海峡、地中海と紅海を結ぶスエズ運河、紅海とアデン湾・インド洋を結ぶバブエルマンデブ海峡である。
イランの生産する原油はホルムズ海峡を通り、欧州、中国、日本などに向かう。他方、シリアやイラクに駐留する米軍基地への攻撃にイランが関与したとの報道もあり、仮に米国がイランに制裁措置を課すなら、ホルムズ海峡を通るタンカー輸送に影響することも予想される。2019年にイランがサウジアラビアのタンカーをミサイル攻撃した事例も忘れてはならない。
またエジプトは近年液化天然ガスを生産してガスパイプラインで近隣地域に供給するが、スエズ運河やバブエルマンデブ海峡を通るタンカーで、日本を含むアジア地域にも供給している。同様に、イスラエルも東地中海のEEZ内でガス田を開発し、液化天然ガスをパイプラインで周辺国にも供給している。この地域での軍事衝突は、エネルギー資源の流れを阻害する要因となることが懸念される。
さて、11月30日から国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)がUAEのドバイで開かれる。今後の脱炭素に向けた世界的な潮流が日本のエネルギー需要の化石燃料依存体制にも影響するのは確かだろう。
ただし石油に依存する日本のエネルギー事情を急に変えることは難しい。なぜなら日本で原発が再稼働しても、その絶対数はいまだに少ないから。日本列島の西側は原発が再稼働しているが、東側はまだ動かせない状態だ。他方、再生可能エネルギーは天候などの自然環境に左右され、安定供給という面で脆弱であり、よい選択とは言えないだろう。日本は原子力発電を拡充していかないと、この逼迫した状況を打開することは難しい。
【略歴】
アイルランド出身でEU市民権を持つ公認会計士、土木技師。ドイツ銀行、バンクオブアメリカ、メリルリンチなどで20年以上にわたり香港、東京を中心にアジア太平洋地域の業務を経験した後、日本でエネルギー・コンサルティング会社Mathyos Advisoryを創設。国際企業や機関に対し外国投資戦略などをアドバイスし、アジアのビジネスや安全保障についてもコメントを発信している。 (文責 国基研)