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2024.04.12 (金) 印刷する

総合安全保障プロジェクト始動 「中国の軍事安全保障と経済の動向」

国基研は4月から総合安全保障プロジェクトという名称の研究活動を開始。4月12日はその第1回めとして、中国安全保障動向を中川真紀研究員が報告し、その後、企画委員の田村秀男・産経新聞特別記者が、安値輸出と生産過剰を続ける中国の経済動向を解説。

総合安全保障プロジェクトの成果は、逐次、国基研チャンネルやホームページ上にも掲載していく予定です。

【概要】
1. 総合安全保障プロジェクト「中国安全保障動向」
中川真紀研究員

4月に開始した総合安全保障プロジェクトは、わが国の安全保障に影響を強く及ぼす中国を中心に分析するもので、その成果を月に1回の定期報告、あるいは特異事象があれば特報という形で報告する。分析の基本はオシント(Open Source Intelligence)であるが、衛星写真も活用し、視覚的な提示を目指す。

今回は全人代人民解放軍・武装警察代表団全体会議から軍整備の方向性を分析する。

習近平は2013年から中央軍委主席として全人代人民解放軍・武装警察代表団会議に出席し軍改革の方向性を重要講話という形で現してきた。

まず、2013年に軍改革を提唱した後、2015年は「首から上」の機構改革により7大軍区を5戦区に再編した。そして2017年は「首から下」の部隊改革で集団軍を改編し海警を武警に編入した。2018年は制度改革で軍の商業活動を停止し、2022年以降には運用改革で戦争準備に焦点を移した。

最近の重視事項として2022年は軍関連法制度の完備、2023年は国家戦略システム・能力の一体化構築、2024年は新領域への対応としている。特に2023年はウクライナ戦争の教訓を反映し、国家備蓄や国防教育・動員関連を重視した可能性がある。また2024年には「新領域」、つまり海洋、宇宙、サイバースペース、生物、新エネルギー、AI等が特に強調された。

今後は、改革により機械化・情報化され、十分な訓練環境を与えられた部隊が、新領域能力を強化していく可能性がある。

資料PDF「全人代人民解放軍・武装警察代表団全体会議からみる軍整備の方向性」
 

2.「世界を揺るがす中国の安値攻勢と習近平党総書記の覇権戦略」
田村秀男企画委員

欧米が危惧する中国の過剰生産・安値攻勢の実態は、品目としては在来産業から新分野まで幅広い。品目別輸出単価を比較すると鉄鋼、船舶、肥料、太陽電池、リチウム電池などで価格の急落が見て取れる。EVは横ばい状態だが1台当たりの平均価格は2.7万ドルで、欧米の普及ラインとされる3万ドルよりはるかに安い価格設定である。

この安値を後押しするのは人民元安である。ウクライナ戦争以降、人民元の対ドルレートは下落し続けている。他方内需が低迷しているので余剰生産物は輸出に回る。政府は対外取引において人民元決裁を拡大する。元建てにするとドルに換算した価格は元安の分だけ下がり、輸出に有利に働くことになり、安値輸出が加速する。

このように中国経済圏は拡大の一途を辿る。中国の向かう先は、モノによる覇権獲得であり、その手段が一帯一路の対外膨張である。

世界はモノ対カネの覇権争いと見ることができる。米国は基軸通貨で金融覇権を握ってきた。中国は工業製品つまりモノの供給で支配、ロシアはエネルギーと食料で覇権を握ろうとしている。しかし、中国の問題は、共産党主導経済が行き詰まりを見せること。西側の資本投資が激減し、技術とカネが入らず、財政出動も少ない。国内では共同富裕というが、現実は格差が広がる。少子高齢化でも年金や医療保険は未整備。行き詰まりの出口は海外に向けて輸出攻勢をかけるしかない。

中国国家統計局発表のデータからGDP成長率を計算すると昨年は実質0%付近ではないか。そうすると外資は対中投資を避けるようになる。円安の日本はどうか。人民元に対しても円安の状況で、同様に中国からの投資回収は続くだろう。

トランプ前大統領は60%の対中制裁関税発動を公言し、米誌フォーリンアフェアーズの論文には、日欧を巻き込んだ新プラザ合意や、より過激な策をとるべきとの対中強硬策が提唱されている。しかし、日本の政界も経済界も日中友好路線であり、欧米に比べて危機意識に乏しい。

このまま中国のモノの過剰生産と安値輸出を放置していたら国際秩序が崩壊するのではないかと危惧する。

(文責 国基研)
 
 

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