公益財団法人 国家基本問題研究所
https://jinf.jp/

最近の活動

  • HOME
  • ニュース
  • 「中国軍着上陸作戦の様相 - 漢光40号を基にした一例の提示」 中川真紀・国基研研究員
2024.10.25 (金) 印刷する

「中国軍着上陸作戦の様相 - 漢光40号を基にした一例の提示」 中川真紀・国基研研究員

10月25日、中国軍事動向の専門家・中川真紀研究員が、仮に中国軍が台湾に対し着上陸作戦を展開した場合のイメージを、台湾が7月に実施した「漢光40号」演習を参考に具体的に例示し、解説した。

【概要】
〇中国の台湾侵攻イメージ

中国軍による台湾侵攻イメージは、上陸前に電子妨害やミサイル攻撃で台湾の防空力を制圧するSEAD(Suppression of enemy air defense)を実施すると共に、艦艇や航空機を使い海上及び航空優勢を獲得し、渡海できる条件を整える。米軍の来援を牽制するためには、空母打撃群を第2列島線まで張り出したいところであるが、固定翼早期警戒機が離発着できるカタパルト式空母が運用段階になるまでは、来援阻止の主力はIRBMであろう。

〇中国陸上戦力の運用例
中国軍は中央軍事委員会の下に5個戦区、その下に陸軍の集団軍が置かれている。

台湾侵攻は、東部戦区が主担当、南部戦区が副担当である。東部戦区の第72・73集団軍及び南部戦区の第74集団軍が着上陸作戦任務を有し、他戦区の集団軍等が後続部隊となる。

具体的な台湾の上陸適地は、台湾側では紅色海岸と呼称し、10か所以上存在するが、台湾が本年7月に実施した漢光40号演習では北部の海湖海岸、西側中部の甲南海岸、西側南部の喜樹海岸を想定して訓練が行われた。

〇海岸堡設定から内陸部侵攻へ
台湾に着上陸する場合、まず海岸堡の設定が必要である。海岸堡とは、先遣部隊が後続部隊揚陸のために確保する拠点のことであり、この設定までが着上陸作戦である。

漢光40号演習ではさらに斬首作戦(指導者殺害)として淡水河(台北市内を流れる大きな河川)からの首都侵入を想定した訓練が行われたように、海岸堡設定と並行して海軍陸戦隊や空挺軍が斬首作戦や空港・港湾奪取等に使用される。

台湾全体で見ると北部正面に上陸した場合は首都の制圧や政権脱出時の追撃、中部正面の場合は首都への北上部隊阻止や花蓮移転政権の制圧、南部正面は南部軍事基地の制圧や北上部隊の吸引などの目的が考えられる。

〇抑止の鍵となるSSMの配備
着上陸作戦で特に重要なのは侵攻部隊の海上輸送である。そのためには、海上優勢を獲得することが必須であるが、その障害となると中国が阻止を目論んでいるのが、第1列島線上にある日本とフィリピンにおけるSSM(対艦ミサイル)の配備である。

現在、南西諸島の陸上自衛隊に配備している12SSMの射程は200kmと言われているが、防衛省ではこの数倍の射程を有する12SSM改良型の開発を進めている。

また、米陸軍は射程1600kmのミサイルが発射可能なタイフォン・ミサイルシステムを本年4月に初めてフィリピンのルソン島北部に訓練展開させた。

近年、中国が日米同盟強化や南西諸島の自衛隊配備に対して反発し、南シナ海でフィリピンへのハラスメントを増大させているのはSSM配備阻止が大きな目的の1つである。

日本がわが国独自の抑止力として長射程のSSMを配備し、日米同盟を深化、比との協力を強化させることにより、より中国の台湾侵攻への抑止が期待できる。(文責 国基研)