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2025.01.08 (水) 印刷する

【詳報】 第17回 会員の集い シンポジウム「日米新政権 私たちがなすべきこと」

第17回 会員の集い シンポジウム/令和6年11月4日/東京・ホテルニューオータニ

第17回 会員の集い シンポジウム「日米新政権 私たちがなすべきこと」

国家基本問題研究所は11月4日、通算17回目となる会員の集いを開催。シンポジウム『日米新政権 私たちがなすべきこと』から小林鷹之衆議院議員の基調講演をご紹介します。

略歴

小林 鷹之(こばやし たかゆき)

衆議院議員・元経済安全保障担当大臣。1974年千葉県生まれ。99年東京大学法学部卒業、大蔵省(現・財務省)入省。2003年ハーバード大学ケネディ行政大学院修了、財務省理財局総務課長補佐、在米日本国大使館書記官を経て、2012年第46回衆議院議員総選挙で初当選(現在5期)。16年防衛大臣政務官、21年初代経済安全保障担当大臣、内閣府特命担当大臣(科学技術政策・宇宙政策)。2024年9月の自民党総裁選に出馬。著書「宇宙ビジネス新時代! 解説『宇宙資源法』」(2022年、第一法規株式会社)、「世界をリードする国へ」(2024年、PHP研究所)

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第17回 会員の集い シンポジウム「日米新政権 私たちがなすべきこと」

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日本を再び世界の真ん中に

小林鷹之

自律した日本に

アメリカの大統領が誰になろうとも、私たち日本の政治が立脚すべきは国益です。十九世紀のイギリスの首相・パーマストンが言った通り「我々には永遠の同盟も、永遠の敵もいない。あるのは国益のみ」。この一点に尽きると思っています。また、外交は、日本の国益だけではなくてアメリカの国益も考えて展開しなければなりませんから、双方にとっての国益をプラスに働かせる外交を行う必要があります。

私は経済安全保障の目的の一つは、日本を他国の動向に右往左往しない国にすることだと考えています。アメリカや中国といった大国の動向という変数は大きいので、当然考慮しなければいけませんが、日本としての戦略的な基軸を持った上で、日本自身の政策を自ら決定していく。本当の意味で日本を「自律した国」にしたいと思っています。

ただ、今、日本の置かれている状況を見るとなかなか難しい。日本の経済力は低下し、GDPはドイツに抜かれました。来年はインドに、その次はASEANの国々をすべて足した経済規模に抜かれていくと言われています。

私は二〇〇九年の政権交代直後に国政を志そうと決意しましたが、今の状況は当時の日本と似ているように感じます。当時、私は財務省に所属し、ワシントンの日本大使館で外交官として外から日本を見ていました。毎年総理が替わり、ガバナンスが低下し、政権を取った民主党も皆様ご存じの通りで、政治的な基盤は非常に弱かったのです。そのような中で、当時の民主党党首が沖縄・普天間の米軍基地移設をめぐって「最低でも県外」「トラストミー」という言葉を発しました。私は大使館で働いていたので、トップリーダーのそのたった一言で、日米関係が音を立てるようにガタガタと崩れていくのを肌で感じたのです。日本の外務省や防衛省の仲間が日米関係の維持に苦労する姿を見て、このままだと日本の国際社会でのプレゼンスがさらに低下をしてしまうという強い危機感を抱き、私は財務省を飛び出したわけです。

かつて、中曽根康弘元総理は、透明性の欠如した国、また責任が不明確な国からは、一流の国家戦略は出てこないと仰いました。今の状況は二〇〇九年当時の日本の政治状況と全くイコールではなくとも、似通った状況になってしまっています。

そのような状況の中で、私は「世界をリードする日本」を作るというビジョンを明確に掲げています。もう一度、世界のど真ん中に日本を立たせたい。そのための二十五年先を見据えた「国家戦略二〇五〇」を作ると明言して私は自民党総裁選挙を戦いました。これが当面の私の目標です。

私は団塊ジュニアの世代です。もうすぐ五十歳になるのですが、私たちの世代は小学生、中学生の頃に「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と呼ばれたあの右肩上がりの日本を肌で感じているおそらく最後の世代だと思います。あの勢いのある日本をもう一度、取り戻したい。安倍晋三元総理が国際政治の真ん中に立っていた、その日本をもう一度、取り戻したい。私たちの世代がこの日本を立て直したいと思っています。

国力のマトリクス

世界をリードする国にするためには何が必要なのか。一言で言うと、「国力」を高めるということです。では「国力」とは何なのか。私が政策を考えるときに、常に頭の中に描いている「国力のマトリクス」を説明します。

国家戦略の根幹にあるのは、暮らしを豊かにする経済、国を守る安全保障、この二つです。経済と安全保障が国家の基本戦略なのです。この二つを車の両輪として回していく。その経済と安全保障を下で支えているのはイノベーションです。イノベーションとは、社会に対して新たな価値を生み出していく力だと私自身は捉えています。そのイノベーションを生み出すのは人、イノベーションの成果をどう使うのかを決めるのも人です。ですから全ての根幹には人作り、教育があります。算数、国語、理科、社会、という受験勉強の知識の蓄積も重要ですが、それに限った話ではありません。これから不確実な世の中になっていく中で、どんな状況に置かれても自らの頭で考え、自らの意思で行動していく人間力を培っていく。そういう教育が全ての基盤にあると思います。

この経済と安全保障、イノベーション、教育が私の考える「国力のマトリクス」です。これらをバランスよく高めることで、日本の国力を増強し、世界の真ん中に日本を近づけていくということです。

経済と安全保障について私はどのようなことを考えているのか。

まず、日本経済の成長力を高める必要があります。経済こそが国力の源泉です。「賃上げ」は大切ですし、この流れを加速して軌道に乗せていかなければいけない。しかしながら、本来それは企業の経営判断で行うべきものです。日本経済が置かれている状況が今、大変厳しいため、国が賃上げを要請しています。こうした要請は当面必要ですが、未来永劫続けるべきものではない。本質的には日本経済の成長力を高めることに尽きます。

では、どうやって日本経済の成長力を高めていくのか。私は総裁選のときに、その方法を三つ挙げました。一つ目は「シン・ニッポン創造計画」、二つ目は新しい官民連携の枠組み「日本版COTS(コッツ)」、三つ目が経済安全保障の強化です。

この三つに共通するのは、国が大胆に投資するということです。国が大胆に投資をして日本の経済を浮揚させていく。実はこれは総裁選のときに一つの論点になりました。他の候補者から、「国が投資するのは計画経済で、本来は企業自身がやるものだ」との指摘を受けました。経済を牽引していくのは民間の創意工夫であり、民間の力だと私も思います。しかし、本当に民間企業だけに任せていて今の日本の経済が良くなるかというと、私はそんなに甘い状況ではないと思っています。今は国がしっかりと伴走しながら大胆な投資をしていく必要があると私は考えています。

挑戦しなければ二流国になる

先ほど挙げた日本経済の成長力を高める三つについて少し説明を加えます。

一つ目の「シン・ニッポン創造計画」は、国が地方に対して大胆に投資をして全国各地に産業クラスターを創っていくというものです。今は東京と大阪という巨大なエンジンがありますが、それは限界に来ています。私は北海道から九州、沖縄に至るまでそれぞれの地方地域に日本の経済を駆動させていくエンジンを作っていかなければいけないと思っています。

その最たる例が半導体です。一九八〇年代には、日本企業が世界の半導体市場の半分を占めていました。それがいつの間にか世界シェアの一割を切る水準になり、このままいくと本当になくなってしまう瀬戸際に立たされたのです。

そこで三年前、二〇二一年の夏に、政治家若干名、経産省の官僚の方、民間企業の方、十名に満たない人達で集まって話し合いをしました。私がそのとき申し上げたのは、政治がすべきことは、国家の意思とビジョンを示すことだということです。また、そこに向けて国がいくら投資をするのかを明確に打ち出す必要性を申し上げました。これは最初は十年間で十兆円で、最初の五年間はリスクが高いので国がリードし、後半を民間が主導していくという大きな図を描きました。十年かけて日本の半導体産業が再び世界のトップに立つことを目指すビジョンを作ったわけです。

当時、実は有識者の一部からは、「今さら遅い」「国が出てきたら失敗する」と言われました。もちろん当時私たちの作ったビジョンとロードマップが一〇〇%成功するとは断言できません。失敗するかもしれない。でもそのときに確実に言えたことは「挑戦しなければ日本は二流国になる」ということなのです。これからますます必要になる半導体の復活にチャレンジしなければ、半導体をすべて外国に依存する国になります。それはつまり二流国になるということなのです。それを政治として看過するのか。答えは「ノー」です。挑戦するしかない。そういう思いのもとに、このビジョンとロードマップ、そして次の三つのステップを作りました。

「半導体」の波及効果

最初のステップが今、熊本で始まっています。台湾のトップメーカーであるTSMCの工場誘致です。TSMCの工場を建設したことによって六十社近い企業が熊本県に集まってきています。雇用の機会は増え、賃金の水準は上がる。アルバイトの方も時給千九百円ぐらいになっています。現地に行くといろんな苦労もあるのですが、確実に賃金が上がっていく波及効果は出ています。また、国が本気でそこまでやるのなら、自分たちが日本の半導体の将来を担ってやろうじゃないかという意欲ある若い方がどんどんと地元の熊本大学、熊本高専、あるいは九州大学に集まってきています。若い方が集まるからこそ地域が活性化します。いろんな試算がありますが、この波及効果は十年間で十兆円を超えるとも言われています。ただ、この第一ステップは台湾の企業を誘致するもので、日本の技術ではありません。先端ではない他国の技術を学び、追いつくためのステップです。

そこで第二ステップがあります。それが今、北海道で準備が進んでいるラピダスというトヨタやソニーなど八社が出資して設立した半導体メーカーです。次世代半導体を日米連携の下で開発、製造していくラピダスは、二〇二七年から稼働していくと言われています。他国の技術レベルに十年遅れていた日本が、一気に世界のトップに立つという構想です。

さらに、ラピダスだけでなく、今、北海道バレー構想という壮大なプロジェクトが進もうとしています。これはラピダスのある千歳や苫小牧から石狩湾に至る非常に広大なエリアに国内外の企業や研究機関を集積させるというものです。一流の人材を北海道に呼び込んで、北海道から社会に対して新しい価値を生み出していくプロジェクトが進もうとしているのです。この経済波及効果が二十兆円を超えるのではないかとも言われています。

当初、例えばTSMCを熊本に呼んでくるために、兆円単位の国費を投入するのは、血税の無駄遣いじゃないかと言われました。単年度の財政収支で見れば確かに厳しいかもしれませんが、十年、十五年のスパンで見れば、税収増として返ってくるのです。

この半導体の例のように、世界と勝負できるような産業の塊を日本各地に作っていくことが必要です。産業は航空宇宙産業でも、次世代のエネルギー産業でも、データ産業でもいい。スマート農業でもいいし、あるいは日本の強みのある素材産業でもいいのです。それぞれの地域で国と自治体と企業が連携して、少なくとも十年先のその産業のビジョンを示した上で、産業の塊を各地方に作っていく。だから国は大胆に投資をすべきなのです。これが私が考えている日本の経済を成長させていく一つのアイデアです。

国家プロジェクトを掲げよ

二つ目の「日本版COTS」について説明します。実はイーロン・マスク氏のスペースXという宇宙関連の民間企業は最初から巨大な企業として存在したわけではありません。アメリカのNASA(アメリカ航空宇宙局)にあるCOTS(商用軌道輸送サービス)というプログラムを利用するなどして大きくなりました。このCOTSとはどういうものか。昔、スペースシャトルという有人宇宙船があり、このランニングコストが非常にかかるため、NASAは国際宇宙ステーションに物を運ぶ輸送サービスを民間企業にやってもらいたいと考えた。そのためにNASAは期限を設定し、数百億円という資金を手を挙げた企業に提供した上で、企業間の公正な競争を促し、成功した企業に政府調達をするというようなプログラムです。私は日本でもこういうプログラムを作るべきだと以前から考えており、総裁選でも主張しました。

これは、スタートアップの支援でもあり、イノベーション創出のための投資なのです。

単に宇宙分野に限った話ではなくて、日本には国家プロジェクトとして行わなければならないことがたくさんあります。国家プロジェクトを掲げて、お金は国が出す、期限内にそれを実現できた企業から政府調達をする、あるいは報酬を払う。そうして挑戦する意欲のある方たちの背中を国がしっかり押していくことが私は必要だと思っています。

三つ目の経済安全保障は、企業を規制するものとしてマスコミに報道されることが多いのですが、そうではないのです。経済安全保障の一番重要な目的は経済成長の強化です。経済成長のためにも経済安全保障をやらなければならないのです。

二年前に経済安全保障推進法という法律を日本は世界に先駆けて作ったのですが、同時にもう一つ、実は重要な法改正をしました。それはNSC設置法(国家安全保障会議設置法)の改正です。これはほとんどマスコミが報道してくれないのですが極めて重要なポイントなのです。改正するまでのNSC設置法には「国家安全保障に関する外交政策及び防衛政策の基本方針並びにこれらの政策に関する重要事項」と書いてありました。その「外交政策及び防衛政策」に法改正で「及び経済政策」という言葉を付け加えたのです。つまり、これは我が国の安全保障は外交と防衛と経済、この三つからアプローチすることを、日本の法体形上で明確化したエポックメイキングな試みでした。

経済安保のポイント

経済安全保障は「自律性」と「不可欠性」という二つの概念からなっています。「自律性」とは脆弱性を解消することです。「不可欠性」とは、この分野は日本がいないと世界が成り立たないというような分野を戦略的に増やしていくことです。簡単に言えば、強みを獲得するということです。つまり、経済安全保障とは脆弱性を解消して強みを獲得していくことなのです。そのために国が投資をするところが、私は経済安全保障の一つの重要なポイントだと思っています。

例えば、先ほどの半導体の例もそうですが、サプライチェーンを強靭化するために、国も投資をしていく。あるいは不可欠性として、この分野は絶対に日本が勝つという分野を特定する。AIや量子、バイオなど様々な先端技術があり、アメリカや中国のように全てを取りに行くことは日本は難しいかもしれませんが、この分野は世界を取ると特定した上で、そこに国が投資をしていく。AIや量子に加えて言えば、二十一世紀の「産業の米」はデータですから、メガデータセンターをどうするのか。データのプラットフォームを、日本は本当にやらなくていいのか。これは経済安全保障上の非常に重要なポイントで、私はやるべきだという立場です。先ほどCOTSの話をしましたが、挑戦するスタートアップを国として応援し、経済安全保障上の投資を組み合わせることで、人口が減っていく中にあっても地方に産業のクラスターを作り、日本の成長力を高め、経済を強化していく。

経済力を強化することによって、技術力や防衛力は高まります。するとそれを裏付けとした外交力が高まります。外交力が高まれば、我が国の国益にかなうような形での国際ルールの形成が容易になるわけです。それは我が国の経済力にまた被益します。このサイクルを作りたい。政治がその意思を示さなければいけないのです。

私は財務省出身なので「どうせ財政緊縮派だろ?」とよく言われるのですが、そんなことはありません。「経済が財政に優先する」のです。単年度の収支を合わせようとして、それで経済が縮小したら元も子もありません。経済成長しない限り日本の未来は切り開けません。経済成長すれば、その果実を財政や社会保障に回せますし、その制度も安定していく。そういう道を模索するしかないと思います。

「再エネ最優先」ではいけない

経済成長を支えていくために必要なのがエネルギーです。特に電力需要は、生成AIによって爆増していきます。今、第七次エネルギー基本計画を作るための検討が政府内で進んでいます。現行の第六次エネルギー基本計画は三年前(二一年)の秋に閣議決定されました。当時から電力需要が爆増するという事など党内で侃々諤々の議論をしましたが、「再エネ最優先」という原則を掲げる中で今のエネルギー基本計画が作られてしまったのです。

私は総裁選で、自分が総理総裁になったら年内に速やかにエネルギー基本計画を変えると申し上げました。再エネが要らないとは言いません。再エネも、原子力も、火力も必要で、重要なのはそれらのバランスです。例えば、太陽光パネルを国土面積当たり、これだけ敷き詰めている国は他にありません。また、サプライチェーンを考えれば太陽光パネルは特定の国に依存しすぎていて、増やせば増やすほどそうした国に国富も流出していきます。環境問題や自治体との摩擦もあります。そういう状況の中でもう少し冷静に考えようということです。バランスを無視してとにかく「再エネ最優先」ではいけない。

原子力は安全性を担保した上で再稼働を進め、新増設も行うべきです。火力も必要です。経済安保推進法の特定重要物資にはLNG(液化天然ガス)を指定しましたが、残念ながら天然ガスは備蓄に不向きです。だからこそ供給元を多様化していかなければならない。トランプ氏が大統領になったら、アメリカから天然ガスをもっと輸入するのも一つの外交ツールとしてあり得ると思います。石炭もいざというときのためには持っておく必要があります。備蓄に優れているだけではなく、日本には世界に誇る石炭火力の技術があります。途上国の中には、すぐに高価な再生可能エネルギーにシフトできない国もたくさんありますから、そうした国に日本が貢献する一つのツールとして使えばいいのです。

二〇五〇年を見据えたエネルギーの国家戦略としては、「エネルギーの輸入国」という日本の大前提を変えたい。「エネルギーの輸出国・日本」を作りたいと考えています。それは核融合エネルギー(フュージョンエネルギー)によって可能になります。フュージョンエネルギーは今、世界で日本が最も技術を持っていると言われています。これがもし成功すれば、エネルギーの覇権は「資源の保有国」から「技術の保有国」へと移っていく。

実はフュージョンエネルギーの国家戦略は去年(二〇二三年)春に政府が策定しました。しかし米英中という日本より技術的に遅れている国が、一つの節目である発電実証を「二〇三〇年代」や「二〇四〇年」に設定している中で、なぜか日本だけが二〇五〇年頃としていたのです。これはもう党が主導するしかないと、私が党内にプロジェクトチームを立ち上げ、政府に対して提言を行った結果、目標を二〇三〇年代に前倒ししました。国家の意思を示したということです。今後はその目標に向けて、国とスタートアップがそれぞれの努力をしていかねばなりません。

日米同盟の価値を高める

自分の国を自分で守る意思のない国をどの国も助けてくれることはありません。防衛力の抜本的強化は不可欠です。また、同志国との連携も重要ですが、やはり日本の外交安全保障上の基軸になるのは日米同盟ですから、それを強化し、抑止力、対処力を高めていくことが、今、日本に最も求められていることです。その際、アメリカにとっての日米同盟の価値をいかに高めていくのかが重要です。防衛費の増額、能動的サイバー防御もやらなければならない。日本のインテリジェンス能力、デュアルユースの研究開発も強化をしていく必要があります。つまり日本の自助努力によって、アメリカをアジア、あるいはインド太平洋地域につなぎ止めておく。また、中国、ロシア、北朝鮮に日米同盟の意思を誤解させない、あるいは過小評価させないことが重要です。そのために拡大抑止の充実や指揮統制の強化、南西方面におけるプレゼンスの強化も必要です。日本が気をつけなければいけないのは、同盟国や同志国に対して誤ったメッセージを発しないことです。軽々に思いつきの発言をすることは控えるべきだと思います。

安全保障では宇宙とサイバーという二つの分野についてお話しします。サイバー分野では基幹インフラへの脅威があります。三年前にはアメリカで石油パイプラインの「コロニアル・パイプライン」に対してサイバー攻撃がありました。日本でも昨年夏、名古屋港に対してサイバー攻撃があり、一時、物流が止まったという事案もありました。つまり、能動的サイバー防御の法整備は喫緊の課題なわけです。しかし、当初年内にやる予定であったものが、先送りになるのではないかとの報道がありました。私は能動的サイバー防御は今年の通常国会でやるべきだと去年の早い段階から言ってきました。通常国会で成立したセキュリティクライアンスと能動的サイバー防御は、簡単に言えば表裏一体だからです。能動的サイバー防御は民間企業と連携する必要があります。国の持っている極めて秘匿性の高い機密を民間企業に共有しなければ対応できないのです。それが政治的な決断や状況が整わず、通常国会ですべきものが年内になり、それがまた先送りされようとしていると報道されたのです。これは急がなければいけない。

もう一つは宇宙ですが、宇宙空間は産業上だけではなく安全保障上も重要です。二〇二一年当時、私は宇宙担当の閣僚で、就任直後に問題提起をしたことがあります。アメリカには宇宙に関する国家安保戦略があるのに、日本にはない。宇宙空間で日米が連携するとしても、日本自身の戦略がなければアメリカに依存あるいは追随するだけになってしまう。それは主権国家のあるべき姿ではない。こう考え、日本の宇宙戦略を作る必要があると問題提起をしました。それが形になり、二三年春に宇宙安全保障構想が作られたのです。今年(二四年)五月に渡米したときワシントンでは、日本独自の宇宙安全保障構想ができ、より日米間で中身のあるすり合わせができるようになったと非常に高い評価を頂きました。今後の安全保障を考えていく上でも、日本の戦略を示すことが重要だと思っています。

外交のメリハリ

安全保障では防衛に加えて外交も重要です。外交の基軸にあるのは日米同盟ですが、国際秩序全体を考えたときに、いわゆるグローバルサウスとの関係が重要になると思います。今、インドを中心にいわゆる新興国途上国の力、存在感や発言力が高まっていますが、欧米先進国とグローバルサウスとの間では価値や利害に関する対立が芽生えています。例えば、欧米先進国がグローバルサウスの国に対して上から目線で民主主義を語る、あるいは環境問題を重視して安い石炭火力を使うなと言う。途上国からすれば押しつけがましいのです。

私は総裁選では「BRIDGE(ブリッジ)」という外交構想を打ち出しました。これは日本こそが、その欧米先進国とインドをはじめとするグローバルサウスとの架け橋となっていく構想です。今のままではグローバルサウスは、「欧米先進国は説教をするけれども、中ロは橋や道路を作ってくれる、中ロと仲良くしよう」ということになってしまいます。日本の国益にかなわない方向へと国際秩序が変化しかねない。必ずしも価値を押し付けない日本の包摂的な外交を、トップ外交で行っていく必要があり、これも戦略が必要です。

萩生田光一衆議院議員と共に私は自民党の中に日・グローバルサウス連携本部を立ち上げ、提言を作りました。その時に私たちが考えたことは、メリハリをつけるということです。インドもブラジルも、アフリカ諸国も島嶼国も全て重要ですが、外交リソースは限られています。外に向かってこの国よりこの国の方が重要だと言う必要は全くありませんが、日本から見た時にどの国が戦略的に重要なのかは目星をつける必要があります。例えば、半導体や重要鉱物のサプライチェーンとしての重要性、地政学的な重要性、あるいは市場が大きくて重要な国もあります。そうした国々に対してアメリカや中国がどうアプローチしているのかも把握をした上で、日本の戦略をNSCのようなハイレベルな場で決定していく。そうした外交が必要です。

法体系の欠陥

政治の要諦は危機管理です。自然災害も多発している中で、事前防災に舵を切っていかなければいけないのは当然です。危機には自然災害だけではなく、感染症等も含めた有事もあります。どんな事態が起ころうとも、国民の命や暮らしを守るためには、やはり憲法改正が必要なのです。

日本国憲法の制定過程にいろんな思いはありますが、本当に国を守り、暮らしを豊かにするために、現行憲法をどう考えていくのか。憲法改正に関する党の役員として申し上げてきたのは戦略的な対応をすること、つまり改正項目の優先順位をつけ、改正までの道筋を想定するべきだということです。私は、危機管理の観点から、緊急事態条項の創設と自衛隊の明記を最優先にすべきとの考えです。

緊急事態条項の創設は、今国会の中では各党の理解が得やすい国会議員の任期延長問題が進んでいますが、それでは足りません。例えば想定を超えた有事が起こった時には立法が必要になりますが、国会すら開けない場合は緊急政令が必要になってきます。この緊急政令を含めた形での緊急事態条項の創設が私は必要だと考えます。

自衛隊の明記は、違憲論の解消も必要ですが、国防という国家の果たすべき最も重要な機能の一つが法治国家の最高法規に一言も書かれていないことは、この法体系の欠陥だと私は考えますので、改正しなければなりません。

憲法改正はこの二つを優先順位を高めて行う必要があります。選挙の結果を踏まえて厳しい状況になっていますが、諦めたら終わりです。政治の意思として必ず進めて実現するということです。

私は政治家として国家を運営する上で、「国益」と「保守の思想」を基本理念としています。国益については先程申し上げてきた通りです。そして保守の思想とは、エドマンドバークが言っている通りだと私は考えています。簡単に言えば、人間は間違える可能性があるということを謙虚に受け止める。自分が間違える可能性があるからこそ、自分一人の理性や知性に頼るのではなく、多くの先人が試行錯誤し、残ってきた伝統、文化、慣習に重きを置くという趣旨です。保守思想に立って国家の運営を進めることが重要だと私は考えています。

変化は必要ですが、急進的な変化は良くない。社会を大きく変えるようなことを「一年以内に行う」といったような形で約束するのは適切ではない。そして、自分が間違い得るからこそ権力の行使については抑制的でなければならない。そうした保守の思想に基づくからこそ、目指すべき中長期の国家のあり方(国家戦略)をしっかり掲げて、そこに至るまでの道筋を仲間とともに実行していきます。

 
 

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活動報告

第17回 会員の集い シンポジウム「日米新政権 私たちがなすべきこと」開催

2024.11.08

国基研だより

【会員限定】第17回 会員の集い シンポジウム「日米新政権 私たちがなすべきこと」掲載

会報 令和6年(2024年)12月号 通算第97号