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2025.01.27 (月) 印刷する

総合安全保障プロジェクト:『中国軍の台湾周辺における軍事演習』 中川真紀・国基研研究員

総合安全保障プロジェクトの月次報告会において、中国の軍事動向を分析する中川真紀研究員が、最近の「中国軍の台湾周辺における軍事演習」と題しブリーフィング。国会議員をはじめ企画委員など多くの参加者を得て実施した。
この総合安全保障プロジェクトの成果は、逐次、国基研チャンネルやホームページ上でも展開する。

今回の中川研究員・発表概要は以下のとおり。

【概要】
〇中国が対台湾で聯合シリーズ演習を実施

2022年以降、台湾侵攻を任務とする東部戦区が「聯合」と呼称する演習をシリーズ化して継続実施してきた。

2022年8月、ペロシ米下院議長(当時)の訪台の際に、「聯合軍事行動」が実施され、その後、2023年4月の蔡総統・マッカーシー米下院議長(当時)の会談に際し、それぞれ「聯合利剣」演習を実施した。2024年5月に頼清徳総統が就任すると、「聯合利剣2024A」演習を、双十節の8月に「聯合利剣2024B」演習が実施された。

〇演習の目的は戦略的メッセージ
これらの特徴としては、まず海上封鎖(中国側呼称)のための海警参加兵力が年々増強され、展開時間が短縮されていることが分かる。また海域のみならず空域でも、戦闘機の出動回数が増加し海空連携が強化されている。さらに、演習区域を見ると、直接衝突を回避しつつ、港湾封鎖を企図して部隊を配置しており、台湾の生命線、外国からの支援線、政権の逃亡線を遮断することをアピールしている。それはまさに、東部戦区が発表したプロモーションビデオの表題「勒」(中国語で「強く締める」という意味)が示している通りである。

聯合利剣演習は、東部戦区報道官が演習の時期、場所、科目等を公表しており、威嚇のための戦略的メッセージと受け取れる。

〇昨年12月にも大規模軍事行動
昨年12月4日、頼清徳総統が初外遊先のグアムに到着するタイミングで、3個戦区海軍艦艇と海警船が、台湾周辺及び東シナ海、西太平洋にも展開し、非公表ではあるが一連の軍事行動を行った。

その規模はある程度の大きさだったと推測される。なぜなら、9日から11日まで台湾対岸等の7か所に飛行制限空域が設定されていたことや、3個戦区が同時展開したことがその規模の大きさを示しており、統合演習が実施された可能性がある。台湾侵攻時の初期配置への展開を演練したとの見方もできる。

〇日本が備えるべき中国の軍事行動
中国の演習実績から、台湾有事に呼応して海軍艦艇アセットと連携して海警船の活動が活発化すると見積もられる。その際、特に76mm砲搭載船を増援し、ヘリを利用した法執行活動を尖閣周辺で展開する可能性が高い。

また、12月には中国軍特殊部隊の潜入浸透訓練に使用された香港船籍貨物船「長和」が台中港に入港した。このような民間商船による商業活動を隠れ蓑にしたグレーゾーン事態は、わが国も想定しておく必要がある。

加えて、聯合利剣2024Bの際、多くの偽情報が台湾のSNSに書き込まれたように、中国による認知戦は平時有事を問わず進行している。日頃から日本政府が司令塔となって組織的な対応をとっておくことが必要である。

いずれにしても、あらゆる事態を想定して、自衛隊だけでなく官民が一体となり日ごろから準備しておくことが中国への抑止力となる。今後も中国の活動を継続して注視していくつもりである。 (文責 国基研)