総合安全保障プロジェクトの月次報告。国内主要メディアの記者向け第1回報告会を開催した。
冒頭、櫻井よしこ理事長から開催の挨拶で本会の趣旨説明が行われた。総合安全保障プロジェクトを開始し1年が経過した。その成果はすべて公開してきたが、これをさらに国民に共有されることを期待して報告会を企画したものである。
まず、岩田清文・国基研企画委員(元陸幕長)が海底ケーブルの現状について説明した。これは、本朝実施した月次報告会で大澤淳・中曽根平和研究所主任研究員が説明した「海底ケーブルを巡る安全保障上の課題」を、大澤主任研究員が所用で不在のため岩田企画委員が代わりを務め、さらに独自の解説を加えたものである。
次に、これを受ける形で住田和明・元陸上総隊司令官が登壇し、「台湾北部海域及びバレンツ海での海底ケーブル切断・損傷事案 台湾有事及び日本に及ぼす影響」と題して、わが国の海底ケーブル事情を詳細に解説した。
最後に、中川真紀・国基研研究員が朝のブリーフィングで実施した「中国軍の台湾周辺における軍事演習」を説明した。
大澤氏と中川氏の発表は本朝の月次報告ですでに説明していることから、今回の住田氏・発表概要のみを以下に掲載する。
メディア向け報告会は今後も継続して実施していく予定である。
【概要】
『台湾北部海域及びバレンツ海での海底ケーブル切断・損傷事案 台湾有事及び日本に及ぼす影響』
住田和明・元陸上総隊司令官
海底ケーブルは世界で450本以上あり、その総延長は140万キロ以上で、日本は国際通信の99%以上を海底ケーブルに依存している不可欠のインフラである。しかし近時、世界では海底ケーブルの損傷事案が頻発している。
〇近年の損傷事例
・媽祖列島と台湾本島を結ぶケーブル2本が相次いで切断(2023年2月)
・ベリーズ船籍の貨物船が紅海でフーシ派によるミサイル攻撃で沈没した際に3本のケーブルを切断(2024年2月)
・リトアニアとスウェーデンを結ぶケーブルが切断(同年11月)
・フィンランドとドイツを結ぶケーブルが損傷(同年11月)、中国船による疑い
・エストニアとフィンランドを結ぶ送電ケーブル、フィンランドとエストニア・ドイツを結ぶ海底ケーブル4本が損傷(同年12月)、ロシア「影の艦隊」による疑い
・台湾北部の海域で海底ケーブル損傷(2024年1月)、中国関与の疑い
上記のうち直近で、台湾北部海域における損傷事案は、台湾に揚陸されているケーブル25本のうち、太平洋横断高速海底ケーブルシステム(TPE)のケーブル2本が切断されたものである。これは、日本や米国にも連接していることから、決して他人ごとではない。
損傷事案の嫌疑を受ける商船が調査していた海域には、EAC-C2C やSJC2という、シンガポール、韓国、日本などと連接するものや、FASTERという日本や米国と連接するものなども敷設されている。中国は西側がより多くの影響を被るラインを綿密に調査し、反応を探っていた可能性が高い。
〇日本の現状と保守・防護のための諸課題
さて日本に視点を戻すと、日本に陸揚げされている国際海底ケーブルは22本ある。海底ケーブルを陸地に引き上げる拠点が陸揚げ局で、房総半島や志摩半島に集中しているのが現状である。陸揚げ局は無人施設が多く、また離島などではケーブルが直接人の目に触れるように敷設されており、物理的な攻撃に対し極めて脆弱であることは大きな問題である。
加えて沖縄周辺の海底ケーブルは、その概要が沖縄県のHPにも掲載されており、どのようなルートで敷設されているかが一目瞭然ということは、安全保障上如何なものか。
わが国は他国に比べ、海底ケーブルを防護する国家としての意識が希薄な気がする。民間業者任せのままでいいのか大いに疑問である。
まず、海底ケーブルは常に保守を必要とする。そのために必要な海上ビークルとしては海底ケーブル敷設船だが、民間業者にはNTTが4隻、KDDIが2隻、NECが1隻(チャーター)のみしかない。
総務省は令和3年度から9年度を実施期間として「デジタルインフラ強靱化事業」を行っているが、データセンター、海底ケーブル陸揚げ局舎は東京圏以外に、海底ケーブルは太平洋側以外に、国際海底ケーブル分岐支線・分岐装置は房総・志摩以外に、それぞれ陸揚げされるものに限られている。今まさに経済安全保障や国民生活を担っている主要な海底ケーブルシステムは対象外で、海底ケーブルの敷設、修理、保守を担う海底ケーブル敷設船にいたっては一言の言及もない。
また保守する仕組みとして世界をゾーンに分けて国際共同事業として行う体制があり、日本周辺は「YOKOHAMA ZONE」と称し、日本、韓国、中国で分担している。すると近い将来、中国の保守船が日本のケーブルを保守することも想定しておく必要がある。
さらに、沿岸輸送特許(国内海上輸送は自国船に限る)という制約も見直す必要があるのではないか。現在NTTの保有する敷設船4隻のうち3隻は外国籍船で、保守事業を国内で実施する場合、その都度国土交通大臣の特許を必要とするため、臨機、迅速な対応が困難という問題もある。
海底ケーブル保護を、国家安全保障上の緊急課題として早急に取り組むことを、わが国政府には切望する。(文責 国基研)