総合安全保障プロジェクトの月次報告会、中国の軍事動向を分析する中川真紀研究員が、「日本本土へ攻撃可能なミサイル部隊の整備動向」と題し、中国ロケット軍の対地攻撃用のミサイル部隊の発展状況についてブリーフィング。まず早朝、国会議員をはじめ企画委員など多くの参加者を得て実施した後、昼からはメディア向けに同内容の報告会を行った。
第1部:総合安全保障プロジェクト月次報告会(午前8時~9時)
中川研究員による「日本本土への攻撃可能なミサイル部隊の整備動向」に関する発表概要は以下のとおり。
【概要】
〇発展する中国ロケット軍
中国人民解放軍ロケット軍は、1966年に第2砲兵部隊として発足、2015年にロケット軍に名称変更し、いまや陸海空と並ぶ4軍種の一つに成長した。その能力である核威嚇、核反撃、中長距離精密打撃、戦略的均衡維持をもって、米国などの対象地域全域への戦略的威嚇を行っている。
このロケット軍は、第61から第69までのミサイル基地を隷下に置き、核ミサイル部隊、通常ミサイル部隊、後方支援部隊等から編成される。各ミサイル基地は6~8個のミサイル旅団を持ち、それぞれが運用するミサイルの種類は異なる。
保有するミサイルはミリタリーバランス2025によると、大陸間弾道ミサイルICBM(DF-5A,DF-5B,DF-31A/AG,DF-41)、中距離弾道ミサイルIRBM(DF-26)、準中距離弾道ミサイルMRBM(DF-21A/E,DF-17,DF-21C/D)、短距離弾道ミサイルSRBM(DF-11A,DF-15B,DF-16)、巡航ミサイルGCLM(CJ-10/A,CJ-100)で、合計851個の発射機を保有すると報告されている。
仮に中国軍による台湾侵攻を想定した際、ロケット軍のミサイル部隊はどのような役割を担うのか。例えばICBMは米本土を射程とした核抑止を、IRBMは第2列島線を越えて来援する米軍の台湾接近阻止(A2)を、MRBM・GCLMは第1列島線に展開する米軍艦艇や自衛隊による領域使用拒否(AD)を、SRBMは台湾に対する着上陸前の直接打撃を、それぞれ企図しているものと思われる。
〇拡大強化する日本本土攻撃可能なミサイル部隊
・通常ミサイル部隊は5個旅団
対日指向の可能な通常ミサイルの部隊は、その射程と部隊配置から、MRBM(DF-17)の614、627、655の3個旅団、GCLM(CJ-10,CJ-100)の635及び656の2個旅団の可能性が高い。
DF-17の特徴は、HGV(極超音速滑空兵器)が搭載され、大気圏内を極超音速で滑空飛翔し軌道予測が困難なため弾道ミサイルより迎撃が困難、つまり日本のBMD(弾道ミサイル防衛)網を突破する能力が高いと推定される。
これらの基地を衛星画像で比較すると、例えば吉林省にある655旅団(DF-17)は、2020年の画像では他旅団が使用していたが、2024年には新たな駐屯地地区が増設され新旅団として運用されていることが分かる。さらに福建省にある614旅団(DF-17)は、以前は短距離のDF-11が運用されていたが、現在は環境整備と換装を終えDF-17が運用されている。広東省の627旅団も同様に施設整備とDF-17配備の可能性がある。
巡航ミサイルGCLM(CJ-10、CJ-100)の特徴は、長距離を自律飛行し目標をピンポイントで攻撃できるが、低速のため迎撃されやすい。ただし、新型のCJ-100はマッハ4という高速で、BMD突破能力が高い。江西省にある635旅団(CJ-10)は新施設の整備が概成しており、山東省にある656旅団(CJ-100)は現在も新施設を増築中である。
・核ミサイル部隊も増大
さて日本本土へ攻撃可能な核ミサイル部隊は、その射程と部隊配置から、例えばMRBM(DF-21A)を配備する安徽省の611旅団だが、2024年のCCTV報道で新装備に更新されたことが確認された。報道や衛星画像などから、核及び通常弾頭を搭載可能な新型のDF-26である可能性が高い。
その他の対日指向可能なDF-26装備部隊は、626、654、666の各旅団がある。DF-26は射程約3000~4000kmでグアムキラーと呼ばれるように、どの部隊が対日指向で、弾頭は核か通常弾頭なのか、などを判定することは容易ではない。すなわち、日本のレーダー覆域を考慮すると日本に近いミサイル基地だけが対日任務を持つとは言えず、継続的な動向監視が必要ということである。
〇日本のミサイル防衛と反撃能力を強化せよ
これまでの分析を総合すると、日本本土へ攻撃可能なミサイル部隊(HGV搭載ミサイル、巡航ミサイル、核ミサイル)に焦点を当てれば、質的には日本のミサイル防衛(BMD)突破能力を新たに獲得し、量的には配備ミサイルが増加し、総じて脅威レベルが上がっていると見積もることができる。仮にミサイル全数を使った飽和攻撃が行われるなら、守り切ることは不可能に近い。だからこそ、日本の防衛能力だけでなく、抑止のための反撃能力を強化する必要がある。
いずれにしても、あらゆる事態を想定して、広く継続的に動向を監視し、統合演習での活動状況等から対日脅威を判定し、準備を怠らないことが極めて重要である。今後も中国の活動を継続して注視していくつもりである。
第2部:総合安全保障プロジェクトメディア向け報告会(午前11時半~午後1時)
昼から実施したメディア向け報告会では、まず冒頭、櫻井よしこ理事長から開催の挨拶が行われた。前回開催した第1回の内容を多くのメディアで取り上げてもらうことができたことは一つの成果であり、今後も継続する意義があるとした。
続いて、岩田清文・国基研企画委員(元陸幕長)がモデレーターとなり本報告の流れを概説し、引き続き中川真紀・国基研研究員がブリーフィングを実施した。
発表の後、出席記者からの質問に答える形で補足説明も行われ、白熱した議論が展開した。
【QAの例】
Q:説明の中でミサイル発射基数とミサイル数を分けていたが、その違いは何か。
A:DF-17の場合、輸送起立発射機(TEL)により発射されるのだが、そのTELの数が発射基数で、その発射基に装填するミサイルの全数(再装填用ミサイルを含む)がミサイル数である。公刊資料を読む際、注意する必要がある。
Q:説明の中でA2ADという用語が出てきたが、その意味することは何か。
A:一般にA2ADとはAnti AccessとArea Denialのことで、軍事戦略上の概念である。説明の中では、中国ロケット軍の役割として、来援する米軍の接近を阻止する(Anti Access)こと、及び展開する米軍艦艇や自衛隊による領域使用を拒否する(Area Denial)ことを、それぞれ紹介した。これはロケット軍のみの役割でなく、同時に海空軍にも適用される。
Q:中国ロケット軍の整備は今後も続くのか。
A:ミサイル部隊の整備状況としては、量的にはまだ新たな駐屯地が造成中で、質的にも性能向上に努めており、今後も増大していくことが予想される。したがって、広く継続的な監視を怠らず、注視し続けることが絶対に必要である。
この総合安全保障プロジェクト月次報告会は、記者向け報告会とともに、継続実施していく予定である。
(文責 国基研)