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2026.10.13 (火) 印刷する

『中国「民族団結法」下のチベット』 ダライ・ラマ法王日本代表部 ロブサン・チョダク代表、アリヤ・ツェワン・ギャルポ前代表

10月9日、国基研はダライ・ラマ法王日本代表部の新旧代表お二人による表敬を受け、引き続き企画委員会のゲストスピーカーとして、チベットの現状についてお話を伺った。

まず、前代表のアリヤ氏が退任の挨拶の中で、日本で有意義な時間を過ごせたことへの感謝の意を表し、続いて、新代表のロブサン・チョダク氏とともに、チベット民族アイデンティ保護週間(毎年9月第4週)の記念に中央チベット政権(CTA)が発表した「チベットの現状に関するブリーフィングペーパー」を提示し、その内容について報告した。

その後、櫻井よしこ理事長及び企画委員と質疑応答が活発に行われ、最後にチベットと日本との絆をより強くするため、チベット人の中に日本を知る多くの人材を育てていきたいとの抱負を述べた。
以下にその概要をまとめる。

【概要】
中国は7月1日、「民族団結進歩促進法(以下「民族団結法」)」を施行した。これにより、チベットの言語、文化、宗教的アイデンティティの存続を危うくする政策が成文化されたことに、危惧の念を強めざるを得ない。

これまでも中国政府は教育政策、宗教規制、政治監視、人口移動、開発プログラムを進め、「単一の中華民族アイデンティティ」創出のための強制同化を一貫してきた。チベットの文化や言語は否定され、代わりに中国文化や中国語に置き換えられ、学校では標準中国語で教育されているため、チベットの多くの子供たちはチベット語を話せなくなっており、家庭内での意思疎通にも問題が生じているケースがある。

加えて、チベットの言語と文化を保全する役目を持つ宗教施設の破壊も進んでいる。チベットの僧院は、チベット文学、哲学、歴史、芸術、言語学の学術的中心のため、破壊が進めば取り返しのつかない結果となるだろう。例えば、2026年7月には、世界最大規模のチベット仏教学院の一つであるチベットのラルンガルにおいて、1000棟以上の僧房取り壊しが再開された。この地が単なる観光地となってしまうことは、チベットの文化的・宗教的アイデンティティの礎が失われることを意味する。

チベットはこれまで伝統的慣習を大切にしてきた。例えば断食の行事「ニュンネ」という修行がある。この修行は、悪行の浄化、病気の治癒、功徳の積算、普遍的慈悲の育成を目的としているが、中国当局はチベットのアムド地方で、「ニュンネ」を禁止した。加えて、他のチベット族5県において、祈禱旗やルンタ(仏法を拡げる5色の旗)の撤去・破棄を指示し、マニ石積み(経文などが掘られた石)を破壊し、玄関扉の伝統的飾り旗も焼き払った。このように、独自の慣習を破壊することにより、チベットの伝統文化を根絶やしにしようとしている。

その他にも様々な政策が進行している中で、それらの政策の法的裏付けとなる「民族団結法」が施行されたことにより、今後その動きが更に強化されることが予想される。

【質疑応答】
Q:ダライ・ラマ法王の後継者選びは進んでいるのか。
A:中国政府はダライ・ラマ法王を選ぶ権利が共産党にあると主張するが、それは虚偽である。次世代のダライ・ラマの選出は「転生」が基本であり、決して中国共産党が決めるものではない。現法王は転生することを決めており、次は自由な地で転生する道を選ばれ、決定する権利はダライ・ラマ法王庁ガンデン・ポタン信託財団が持つとされている。

Q:転生した幼い法王が成人するまでのタイムラグをどうするか。
A:それほど心配する必要はない。自由の国に転生するため、中国共産党から妨害される可能性は低い。また、かつての法王は政治と精神の両面で指導的役割を担っていたが、現在は政治的権限が民主的に選ばれた中央チベット政権(CTA)へ移譲されており、精神的支柱としての役割を果たせばよいためである。

Q:2026年8月26日に発生したネパールとチベット周辺地域の大規模な土石流では大きな被害が出たが、その原因は何か。
A:中国によるチベット支配後の自然破壊が原因である。もともとチベットはアジアの水源地帯であったが、中国が巨大なダムを建設したことで、下流地域を水資源によって支配した。そこに近年の温暖化に伴う山間部の氷河崩落が重なり、自然破壊によって脆くなった土壌と相まって、今回の大規模土石流被害につながったと聞いている。

Q:日本や国際社会がチベットのためにできることは何か。
A:1950年に独立国家のチベットを侵略した事実は、重大な国際法違反である。したがってチベット問題は国際問題であり、同時に重大な人権問題でもある。日本や国際社会が正義と真実、民主主義、法の支配を尊重する観点から、声を上げてくれることは、チベット人にとって大きな励みとなる。特に日本には世界最大規模のチベット支援議員連盟があるため、さらなる期待を寄せている。

【略歴】
〇アリヤ・ツェワン・ギャルポ前代表
 インド・パンジャブ大学で学士、アンナマライ大学で経済学修士、デリー大学で日本研究修士及び博士号を取得。1988年に中央チベット政権(CTA)財務省に入省し、2000年に財務省事務次長就任。2005年にダライ・ラマ法王日本代表部事務局長、2019年に情報・国際関係省情報局長、2020年にCTAより日本代表部代表に任命され、本年9月まで務めた。10月からCTA内閣官房長官に就任。著書『英語・日本語・チベット語会話ハンドブック』など著述多数。

〇ロブサン・チョダク代表
 2003年、ダラムサラ・チベット定住事務所の上席事務官としてCTAに加わり、2007年に情報・国際関係省に異動。2013年に同省局次長に就任。2017年、日本代表部事務局長として日本に赴任。2020年、次官補となり内閣事務局へ異動、2024年に選挙管理委員会幹事長に任命され、2026年6月に日本代表部新代表に任命され、9月に着任した。
 (文責 国基研)