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2011.09.09 (金) 印刷する

「進んでいるムスダンの開発、北朝鮮」 黒木昭弘 日本エネルギー経済研究所常務理事

日本エネルギー経済研究所の黒木昭弘・常務理事は9月9日、国家基本問題研究所で「北朝鮮の核の小型化とミサイル開発」について語り、同研究所の企画委員と意見交換した。この中で、黒木常務理事は「北」の核やミサイル開発について、日本の中には海外と少々違う理解をしているころがあると指摘、朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)の調査のため北朝鮮に滞在して分かったことと合わせて見解を明らかにした。同理事の発言要旨は次の通り。

核兵器の小型化の進展

核兵器小型化の鍵を握る技術は核融合である。核融合により発生する大量の中性子線で効率よく核分裂を起こさせる。このテクノロジーはアメリカ、ロシア、中国で用いられ、技術的にはそう難しくない。これまで核爆弾の小型化には、爆縮レンズの設計の高度化が必要で、北朝鮮の設計能力、製造能力では小型化は容易でないと言われていたが、そうではないようだ。

核爆弾一個つくるのにプルトニウムが6キロ、濃縮ウランだと25キロぐらい必要といわれるが、これも核融合を利用することによりプルトニウムで1.5キロ程度まで減らせるという。「北」がこれまでに抽出したプルトニウムは最低でも40キロ、恐らく核爆弾数十発分のプルトニウムを保有していると思われる。「北」が小型核爆弾を持つのは遠い将来と思われていたが、かなり近い将来かすでに保有していると解釈すべきだ。

弾道ミサイルの開発状況

北朝鮮のミサイルは液体燃料を使い、発射直前に燃料補給の必要があるうえ、燃料補給すればミサイルの温度が下がるので監視が容易であるとの軍事専門家がいるが、液体酸素と液体水素を燃料とするアポロシリーズのサターンロケットと同じ、と誤解しているのではないか。「北」のミサイルは常温保存型液体燃料であり、直前に燃料補給の必要もなければ、補給すれば急速に冷却されることもない。2010年の労働党創立65周年パレードで世界のメディアに公開された新しいムスダンミサイル(射程2,500km-4,000km)の特徴は、

  1. 旧ソ連の最初の潜水艦搭載IRBMである、R27(NATOコードではSS-N-6)を入手して改造した。
  2. 酸化剤をノドンミサイル(射程約1,300km)の赤煙硝酸から四酸化二窒素に替えたため、腐食性が大幅に弱まった。この結果、燃料を充填したまま長期間待機することが可能となった。
  3. 一段ロケットだが、多段式のテポドンⅡ(射程約6,000km)に匹敵する射程距離があり、すでにグアムは脅威にさらされている。今後はアラスカ、米本土を射程内にすることも考えられる。
  4. 比較的小型で、燃料をいれたまま移動できるため、船舶への搭載も可能と思われる。
  5. 一段式で取り扱いが容易、移動車に搭載可能なので発射前の破壊は困難。
  6. 日本への攻撃の場合、上空に高く飛ばすロフティド(高)軌道をとることになろう。到達高度、最終速度共に大幅に増大するため、迎撃ミサイルでの撃破は非常に難しくなるだろう。
  7. 「北」はすでにムスダンを数十基保有していると思われる。

 
KEDOでの経験

2001年から2006年まで5年間、KEDOに勤務、その間40回以上にわたり北朝鮮を訪問した。

  1. KEDOの警備を担当していたのは平壌から派遣されたエリート部隊であったが、それでも2004年頃から非公式に食料提供の要請をしてきた。配給が十分ではないことをうかがわせた。
  2. 「北」の核開発の技術者は海外の文献も十分に読んでおり、技術水準も相当高いとの印象を持った。
  3. 「北」の送電網は老朽化が激しく、周波数、電圧共に安定していない。基本的に戦前の日本が建設した発電所と送電網を利用している。また、まともな電力は中国、ロシア、韓国から持ってくるしかない。(ただし、中国、ロシアは50Hz、北朝鮮、韓国は60Hz)

 

(文責 国基研)

発言要旨PDFはこちらから