公益財団法人 国家基本問題研究所
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提言

2009.05.29 (金)

朝鮮半島問題研究会の分析

平成21年5月29日
一般財団法人 国家基本問題研究所
朝鮮半島問題研究会
座長 西岡力、副座長 島田洋一

 
 
 北朝鮮が、日本はむろん米国本土に届く核ミサイルを持つことの目的は、北朝鮮主導の統一だ。韓国の同盟国米国と、基地を提供して米軍を支える日本に対して、北朝鮮主導の統一を妨げるなら、米本土と日本を核攻撃すると脅すことが核ミサイル開発の目的である。米軍と戦わずして韓国を併呑しようとしている。
 1968年11月、金日成は「米国が韓国から手を離さざるを得なくなるように、米国本土を攻撃できる核ミサイルを自力生産せよ」という秘密教示(註)を出した。だからこそ1990年代後半に人口の15%を餓死させても開発を続けてきた。
 
 今回の核実験は、完全な成功とは言えないが3年前と比べると顕著な技術進歩が見られた。4月のミサイル実験でも、前回約40秒で空中爆発したテポドン2の1段目新大型ミサイルの飛行に成功した。また、2段目に載せたノドンミサイルの切り離しと飛行にも成功した。
 核実験でも、前回に比べて威力が格段と強まったことは確かだ。前回は0.5キロトン程度だったが、今回は2キロトン以上の威力があったと推計されている。ただし、長崎に落とされたプルトニウム爆弾の威力、20キロトンには及んでいない。3年前も今回も、プルトニウム239による核分裂が設計通り成功したのではなく、プルトニウム240を意図的に混合した未熟爆発という見方がある。
 現時点で断定できることは、彼らが金日成教示にある「米国を攻撃できる核ミサイルの自力生産」に向けて、着実に新しい技術を確立させていることだ。そこにぶれはない。したがって、このまま放置すれば、近い将来、米国本土を攻撃できる核ミサイルを保持するという戦力目標を達成する日が来る可能性は十分ある。その点で時間は彼らの味方である。
 
 日本政府は朝鮮総連系在日朝鮮人が核ミサイル開発に多大な貢献をしてきたことを見逃してはならない。
 北朝鮮の弾道ミサイル開発には在日本朝鮮人科学技術協会(科協)所属の在日朝鮮人技術者が協力している。科協は大学や企業の研究者や医師ら約1200人で組織され、実体として朝鮮労働党の工作機関「対外連絡部」の直轄下にある。
 平成17年10月、警視庁が薬事法違反容疑で科協の副会長らを逮捕した際の家宅捜索で、陸上自衛隊の地対空ミサイル(SAM)の資料が防衛庁から科協に流出していたことが判明した。
 昨年10月中旬に卞(ビョン)某という京大出身核専門家が北京経由で訪朝したといわれている。
 やはり昨年10月16日から11月13日まで、科協所属のミサイル技術者、徐判道「金剛原動機合弁会社」副社長が訪朝したことが確認されている。彼は東大出身で北朝鮮の共和国博士号を持つミサイルエンジン専門家である。平成18年7月ミサイル発射時にも訪朝した。
 「金剛原動機合弁会社」は、元山に本社と工場を構える北朝鮮との合併会社で、表向きはモーターの会社である、ミサイルエンジンの開発を手がけている。金正日は平成14年10月21日に同社を現地指導した。同社社長の徐錫洪は、東大で博士号を取得したミサイルエンジンの専門家で、科協元副会長でもある。現在、科協顧問を勤め、これまで頻繁に訪朝してきた。最後の訪朝は平成17年9月である。翌平成18年11月自宅を家宅捜索された。
 今回の核実験に対して我が国は、モノ、カネ、ヒトすべてを止める全面制裁を発動すべきである。特に、すべての在日朝鮮人の北朝鮮渡航を原則禁止として技術流出を止めなければならない。
 具体的には、北朝鮮を渡航先とする再入国許可を与えず、別の国を渡航先として申請して北朝鮮入国が判明した場合、在留資格取り消しなどの罰則措置を取ることが必要だ。
 一部政府関係者から、永住許可を持つ総連系在日朝鮮人に再入国許可を出さない措置をとることは人権上問題があるかのような話が流れている。しかし、我が国は1970年代初めまで、総連系在日朝鮮人には一部の例外を除き、再入国許可を出さなかった。外国人の人権と安全保障のバランスを判断して、在留外国人への再入国許可を出すか出さないかを決めるのは政府の固有権限である。
 


註 1968年11月、金日成が「米国本土を攻撃する手段として、核兵器と長距離ミサイルを自力生産せよ」という次のような教示を出している。その部分を引用しておく。(出典、金東赫著『金日成の秘密教示』産経新聞社。金東赫氏は1970年代、北朝鮮の連絡部「指導核心工作員」として金日成秘密教示を学習した)
「南朝鮮から米国の奴らを追い出さなければならないが、このままでは奴らは絶対に退かない。だからわれわれは、いつか米国の奴らともう一度争うべきだという覚悟を持って戦争準備を促進すべきである。……現時期、戦争準備を整えるうえで何よりも急ぐべきことは米国本土を攻撃することのできる手段を持つことだ。これまで世界の戦争歴史には数百、数十の大小の戦争があったが、米国が介入しなかった戦争はない。しかし、そのすべての戦争が他地域で起こった戦争であったため、米国本土にはこれまで一個の砲弾も落ちたことがない。このような米国が砲弾の洗礼を受けることになるとどうなるだろうか? そのときには状況が異なってくると思う。米国国内では反戦運動が起こるだろうし、そのうえ、第三世界諸国の反米共同運動が加勢することになれば、結局、米国の奴らが南朝鮮から手を離さざるを得なくなる。だからトンムらは一日でも早く、核兵器と長距離ミサイルを自力生産できるように積極的に開発すべきである。」(一九六八年十一月 科学院咸興分院開発チームとの談話)