安倍晋三首相は8月29日午前、北朝鮮による弾道ミサイル発射を受けトランプ米大統領と約40分にわたり電話会談した。
外務省の発表によれば、首相はその中で、「北朝鮮に対話の用意がないことは明らかであり、今は圧力を更に高める時であり、日米で連携してこの脅威に立ち向かっていきたい」「全ての選択肢がテーブルの上にあるとの米国の立場を支持している」と発言した。
軍事力行使を含む「全ての選択肢がテーブルの上にあるとの米国の立場を支持」という首相の姿勢は正しい。北が核ミサイルの実戦配備に入ると見られる1年以内に、あらゆる手段を用いて金正恩体制をつぶすという戦略目標を立て、米側と緊密に協力していくべきだろう。
●日本の無力を世界に宣伝
ただ数次に亘って出された政府声明には、問題部分もあった。ここでは一点だけ取り上げる。
同日朝に行われた首相の1回目の会見に「断固たる抗議を北朝鮮に対して行いました」という一節がある。官房長官声明の中にも、「我が国は、北朝鮮に対して厳重に抗議し、最も強い言葉で非難する」とあった。
「対話の用意がないことは明らか」な相手に「抗議」を行って何の意味があるのか。この「北朝鮮に断固たる抗議を行いました」(We have lodged a firm protest against North Korea.)という首相の言葉は国際的にも報じられた。
率直に言って、日本人として恥じ入らざるを得ない。自らの無力を世界に宣伝するに等しいこうした文言は、今後、政府声明から一掃すべきだろう。
事は単に言葉の問題ではない。「最も強い言葉」の中身は不明だが、公開されれば、皆脱力するレベルだろう。「世界が見たこともない火と怒りに見舞われる」というトランプ大統領の言葉に比肩すべくもないことは明らかだ。
●韓国を弱腰と批判できず
武力攻撃を受けるまで自ら反撃はしないという「専守防衛」を変えないままで、また憲法上許される策源地攻撃力の整備にも乗り出さないままで、北がハッとするような「強い言葉」も「断固たる行動」もあり得ない。
ちなみに、米大統領が「北朝鮮に抗議しました」といえば、政界を揺るがす大スキャンダルになるだろう。ところが日本では、与野党含め、疑問視する声が全く上がらない。
韓国では、文在寅大統領が、韓国軍の報復能力を示すよう指示し、同日午前中に、F15戦闘機4機が、金正恩「斬首作戦」を想定した爆弾投下訓練を行っている。同時に、「北朝鮮が挑発を再び強行すれば、我が軍と韓米同盟の断固とした報復に直面する」との声明を韓国軍が発表している。
日本の声明は「断固たる抗議」、韓国の声明は「断固とした報復」。日本に、文在寅を弱腰と批判する資格などない。