欧州中央銀行(ECB)は6月14日の理事会で、資産を大量に買い入れる量的緩和政策を年内に終了することを決めた。
9月末までは現在の月間300億ユーロの買い入れを続けるが、10月から12月にかけては月間の資産買入額を150億ユーロに減らし、買い入れそのものは12月で停止する。米国に続き、欧州も金融危機を受け導入した措置の解除に向けて一歩を踏み出した。
一方、日本銀行は15日、金融政策決定会合を開き、現行の超低金利政策の維持を決めた。日銀の異次元緩和は悪影響が目立ってきたにもかかわらず、目標の「物価上昇率2%」は遠く、緩和を終える「出口」は見えない。
●懸念される市場認識との乖離
日銀は、4月の「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」から、黒田東彦総裁の就任以来、記載し続けてきた物価上昇率2%の目標達成時期を削除した。総裁は15日の記者会見で、「2019 年度頃に2%程度に高めていくという日銀の中心的な見通しは、前回の展望レポートから変わっていない」という認識をあらためて示したが、説明は歯切れが悪かった。
総裁は、「2%は見通しであって、目標ではない」と主張し、「計数のみに過度の注目が集まるのは市場との対話の面からも必ずしも適当とは言えない」と達成時期を削除した理由を述べた。
それでは、「2年間で2%」としてきたものは何だったのか。岩田規久男前日銀副総裁は、目標達成には時期を明示することが必要だと主張してきた。
一方、「年80兆円をめど」に買い増してきた日銀の国債購入額は、既にことし3月末時点で、2013年4月に量的・質的金融緩和をスタートさせた時の「年間50兆円ペース」を下回っている。市場には、日銀が「ステルス・テーパリング(ひそかに進める緩和縮小)」に動き始めたとする見方もある。
黒田日銀は、常々市場とのコミュニケーションが重要だと強調してきた。今回も「年間80兆円めど」の方針は維持したものの、実態との乖離がさらに拡大するようなら、日銀の政策と市場の認識にズレが生じかねず、注意が必要だ。
●健全な市場機能の回復急げ
2013年3月に黒田総裁を誕生させた影の立役者でもあり、異次元の金融緩和政策の導入を後押した浜田宏一内閣府参与は、これに抵抗した白川方明前日銀総裁らを、「孤高の理論に固執し、日本社会を不幸にしている」と糾弾してきた。
つまり、「日本経済の衰退の原因は円高にあり、それは金融緩和によって解決できる」とし、「子供でも分かる経済学の常識を無視した」白川総裁と日銀の不作為こそが今日の日本経済低迷の元凶」と批判したのである。
米国連邦準備制度理事会(FRB)は2013年12月に量的金融緩和の段階的な縮小を開始し、ECBは今回、買い入れ策終了の具体的な期日を示して、FRBより踏み込んだ。
これに対して日銀は、世界の主要国でも達成が困難な2%という物価上昇目標の未達を言い訳に、達成時期を6回も延期してきた。いまや実質的な財政ファイナンスと化した金融緩和政策だが、その継続に拘る日銀や浜田氏は、出口戦略に踏み出したFRBやECBの動きをどのように受け止めているのか。
日本は、先進国中でも最悪の財政赤字を抱える。財政規律を矮小化し、金融緩和政策に依存し続けている。長期金利が上触れしただけで、経済への影響は計り知れない。経済が急速に変化する中では、柔軟な政策運営が求められる。そのためにも、市場とは十分なコミュニケーションを維持しつつ、出口戦略を見据え、健全な市場機能の回復を急ぐ必要がある。