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2018.07.03 (火) 印刷する

サイバー戦士の大量投入で脅威増す中国 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 任務が増大・拡大した反面、国防予算の強制削減が続いたことにより、岐路に立つ米軍の現状を別項で論じたが、本稿では、緒戦でものを言うサイバー戦に投入している人的資源について米中の差を比較してみたい
 2016年の統合軍四半期刊行物(Joint Force Quarterly)に掲載された、米サイバー軍司令官ロジャーズ海軍大将(当時)へのインタビュー記事によれば、米サイバー任務軍の規模は約6200名、133チームである。

 ●最大のターゲットは米国
 一方の中国は、人民解放軍が2016年の年頭に改編を行い、宇宙・サイバー空間での戦いを任務とする戦略支援軍を創設して、サイバー・宇宙戦を重視する強い意志があることを示している。
 その人的規模は公表されていないが、改編前にサイバーを担当していた総参謀部第三部の陣容は米シンクタンク「プロジェクト2049」の出版物『中国人民解放軍SIGINT(通信等傍受)とサイバー偵察インフラ(2011年11月)』によれば、12作戦局と3研究所で総勢13万人になるという。出版物のタイトルにもあるように、この13万人の中にはSIGINTに携わっている人員も含まれるので、全てがサイバー戦要員と片付けるわけにはいかないが、人員規模では米軍を圧倒していることだけは間違いない。このうち米国をターゲットとしているのが上海に拠点を置く第61398部隊で、米司法省は2014年5月、米企業に対する技術情報の摂取で、この部隊の幹部5人を起訴している。
 ちなみに日本をターゲットとしているのは青島にある第61419部隊で、北京にある第61565部隊はロシアを対象としているが、現在の中国にとって、最大のターゲットはやはり米国であろう。

 ●相手の弱点どう掌握するか
 これに対して米国は、中国だけでなく、ロシア、北朝鮮、イランなどにサイバー戦の人的資源を分散させなければならない。6200人の内、中国をターゲットとしているのは、その半分以下ではなかろうか。おまけにサイバー軍司令官のロジャーズ海軍大将は、防御的サイバー戦を優先順位の第1とし、攻撃的サイバーは第2であるとしていた。任務上も133チームの内、サイバー防御に従事するチームとサイバー攻撃に任ずるチーム、そして他の任務に従事するチームとに分散されている。
 サイバー戦能力については米中のどちらが上とは一概に判断できない。優劣を決めるのは常日頃の偵察活動により、いかに相手システムの脆弱性を掌握しているかにかかっている。その際、不可欠な装備の1つは暗号の解読・処理に必要な高速コンピューターだ。米国は昨年、中国のスーパーコンピューターに世界最速の座を一時明け渡したものの、今年はその座を奪還している。
 ただし、量子コンピューターの研究開発では中国が先行しているとする分析もある。しかもサイバー部隊は、人員が多いほど有利という労働力集約型の戦いでもある。対象国の言語をマスターした人員を大量に必要とするからである。ここにも対象範囲を広くするがゆえに充当兵力が薄くならざるを得ない米軍の厳しい現状がある。
 結論としては、急成長する電子産業と、その裏付けとして攻撃的な技術者を数多く抱える中国に対して、サイバーを知り尽くし、ネットワークも牛耳っていて、伝統的な技術者のレベルも高い米国が、いかにその優位性を維持できるかということではないか。