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2018.07.09 (月) 印刷する

「サムライ」の名に値する戦が見たかった 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 サッカー日本代表「SAMURAI BLUE(サムライ・ブルー)」がワールドカップ(W杯)のロシアから帰国して出迎えの大歓迎を受けた。決勝リーグではベスト8進出は果たせなかったものの強豪ベルギー相手に見事な試合ぶりであった。だが、予選リーグでのポーランド戦における時間稼ぎのパス回しはいただけなかった。勝ち上がるための作戦だったとはいえ、観客席からブーイングが巻き起こったのは当然だった。日本サッカー協会(JFA)のビジョンには「常にフェアプレーの精神を持ち」とあるが、それに悖る戦い方ではなかっただろうか。これではサムライの名が泣く。

 ●剣道なら反則と認定
 サムライ精神の凝縮ともいえる剣道の理念は、「剣の理法の修練による人間形成の道」にある。試合に勝つことが目的ではない。「サムライ・ブルー」がポーランド戦で行ったパス回しは、剣道で言えば一本先取した後、鍔迫り合いで相手に密着して故意に時間稼ぎをすることに該当するが、この行為は「公正を害する行為」として反則と認定される。
 同じ武道でも柔道は、「国際化」した結果、一本を取った後、ガッツポーズをとることが常態化している。最近行われた卓球の世界大会でも、ポイントを挙げる毎に選手はガッツポーズをしていた。私は元警視庁主席師範が開いた首都圏の道場で剣道に勤しんでいるが、道場には15年前に亡くなった師範が書かれた「恕」(おもいやり)という額が掲げられている。すなわち「人として最も大切なこと」という意味だ。ガッツポーズをすることは、相手に対するおもいやりに欠ける行為として、剣道ではせっかく取った一本も取り消されてしまう。

 ●勝負第一主義の陥穽
 日本で最も難しい剣道八段審査は、毎年合格率が1%を切っている。私も過去30回以上チャレンジしているが「品・風格」を損ねる行為は厳しく戒められる。国技である相撲も最高位の横綱には品格が求められるが、最近は顰蹙を買うような行動が多い。
 剣道に世界大会はあるものの、オリンピックの競技種目にはなっていない。柔道のようにオリンピック種目になった後、急速に本来の良さを見失いつつある実態を見るにつけ、剣道だけは日本の良さを保ったまま国際化して貰いたいものだと願う。
 サッカーW杯で日本は試合後、サポーターたちが観客席のゴミ拾いをおこなったことや、選手達のロッカールームが清潔になっていたことなどが各国メディアから絶賛された。戦いぶりでもサムライの名にふさわしい「潔さ」が欲しかった。