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2018.07.11 (水) 印刷する

自民党総裁選は憲法改正論議を進める好機だ 榊原智(産経新聞論説副委員長)

 憲法改正論議が停滞している。このままでいいはずがない。自民党が、国家国民の未来を重んじる政党であるなら、憲法改正論議を盛り上げるべく一層の努力を払ってほしい。そのための機会はまもなくやってくる。
 自民、公明両党は、憲法改正国民投票に関する規定を公職選挙法に合わせる国民投票法改正案の今国会成立を断念し、秋に想定される臨時国会へ先送りする方針を固めた。極めて残念なことである。
 森友、加計問題の解明を優先すべきだとする立憲民主党や、野党共闘に傾いた国民民主党などが今国会成立に頑なに応じないことが最大の原因だ。
 改正案は、駅や商業施設に「共通投票所」を設けたり、水産高校の実習生らが船の中から「洋上投票」できたりするなど7項目からなる。いずれも、投票の利便性を増すものだ。平成28年に成立した改正公選法の内容を遅まきながら反映させる改正案であり、立憲民主や国民民主も内容自体には反対していない。
 にもかかわらず、国民投票法の改正に応じないという。憲法問題を政争に利用するとともに、憲法改正論議を少しでも遅らせたいという底意が透けて見える。国民投票法の改正が遅れれば遅れるほど、衆参の憲法審査会での実質的な改憲論議が先送りされてしまう。
 立憲民主などの態度は、正面から憲法改正を論じることを忌避するもので無責任というほかない。

 ●国会議員の責務を果たせ
 主権者国民にとって、国民投票は憲法に記された重要な権利だ。いつでも実施できるようにその制度を整えておくことは、与野党を問わず、憲法改正に賛成か反対かを問わず、すべての国会議員に課せられた務めである。それを怠る政党や議員に「立憲主義」を唱える資格はない。
 与野党の怠慢で、衆参憲法審査会の論議が遅々として進まないのは極めて問題だが、この夏は、国民の関心を呼びながら憲法改正論議を盛り上げることができる貴重な機会である。
 7月22日に国会が閉会すると、自民党総裁選挙(9月20日投開票を軸に調整)の季節がめぐってくるからだ。
 安倍晋三首相の3選が確実視されているが、石破茂元幹事長は出馬の意向だ。日本の政治はどうあるべきかをめぐって、政策論争が繰り広げられることになる。
 憲法改正は自民党の党是であり、総裁選における論争の重要な柱の1つにしなければならない。
 自民党総裁選は、100万人近くの党員が投票する。広く報道され、全国各地の街頭で遊説が行われる。なぜ憲法を改めなければならないのか、どのような改正を実現したいのか。安倍首相や石破氏ら総裁候補は、党員と国民に訴える絶好のチャンスととらえてほしい。

 ●自民は広く国民に働きかけよ
 第2次安倍政権になってから、憲法改正問題はときに盛り上がったが、国会の内外で抵抗にあい、論議はその都度下火になってしまった。
 原因は幾つかあるが、自民党の努力不足もその1つであろう。「国民政党」を自任しながら、自民党は党員や有権者、国民に憲法改正の重要性を訴える取り組みをおろそかにしてきた。これでは、世論の後押しを得られにくいのは当たり前であろう。
 日本をとりまく安全保障環境、経済環境、社会環境は構造的な変化をみせている。「戦後体制」はもはや持ちこたえられない。手をこまねいていれば、日本の独立や国際的地位が保てない時代になった。
 皇室や文化・伝統など大切にすべきものは大切にした上で、改めるべきものは改めなければならない。
 「変化に対応するものだけが生き残る」という人類の鉄則を忘れては日本は危うい。自民党は、世直しには憲法改正が欠かせないことを肝に銘じ、まずはこの夏に、国民に広く呼びかけることからはじめるべきだ。