公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2018.07.17 (火) 印刷する

矛盾だらけの新エネルギー基本計画 奈良林直(東京工業大学特任教授)

 7月3日に第5次エネルギー基本計画が閣議決定され公表された。これは2002年6月に制定されたエネルギー政策基本法に基づき、前回は2011年の福島第1原発事故を踏まえ、原発と化石資源依存度の低減、再生可能エネルギーの拡大を打ち出し、第4次エネルギー基本計画としたが、気候変動に対処するパリ協定の発効を受け、2030年および2050年を見据えた新たなエネルギー政策の方向性を示すものとして見直し、第5次基本計画として政府が策定した。資源エネルギー庁の総合エネルギー資源調査会の基本政策分科会で案をとりまとめ、平成30年5月19日~平成30年6月17日にパブリックコメントを経て、閣議決定された。

 ●「原発はいらない」のウソ
 しかし、その内容を見ると、現状の政策の誤りに触れず、「非連続な技術開発」に期待する矛盾に満ちたものと言わざるを得ない。
 まず、第4次基本計画で火力依存度を下げるはずだったが、再エネの増加と共にそのバックアップとして火力に頼る現状では、依存度は下がるどころか、84%にも達している(6月25日付「ろんだん」参照)。
 再エネのなかでも太陽光の急激な普及が矛盾を拡大している。2016年の時点で太陽光の設備容量は4280万kWに達し、世界第2位となった。100万kWの原発43基分である。
 瞬間的なパワーで見れば、「もう原発はいらない」ほど普及したように見えるが、太陽光は、稼働率(正確には設備利用率)が不安定で低いという致命的な欠点がある。太陽が強く照るのは1日24時間のうち約6時間として25%。これに晴天率を仮に50%として乗じると12.5%。つまり稼働率は高々13%にしかならない。
 太陽光の実力は4280×0.13=556万kWにすぎず、稼働率80%を見込める原発の7基分程度である。不足分は、火力発電に大部分を依存することになり、全体で見れば、太陽光のシェアはわずか3%、風力は1%、水力の10%を加えても再エネのシェアは14%にしかならない。

 ●破綻した再エネ全量買い取り
 太陽光の変動分をバッテリーで蓄電して平準化する案もあるが、これには太陽光パネルの設置を8倍(=1÷0.13)にしたうえで、日本列島が台風ですべて雨天となって、太陽が出ない日が3日間続くと仮定した場合、備えるべきバッテリーのコストは数百兆円となる。余った電気で水素を作る案も、加圧や液化に必要なエネルギーが膨大で、強靭で巨大水素タンクも実用化とは程遠い。
 つまり、太陽光や風力の再エネを主力電源にすることは、天文学・気象学と経済学のいずれの観点からも不可能である。大多数の国民が「太陽光があれば原発はいらない」と錯覚しているなかで達成不可能なエネルギー基本計画が策定されているのである。
 再エネを主要電源として重視する政策は、地球温暖化を防止するために行っているのであるが、火力発電にバックアップを頼らざるを得ない以上、CO2の排出は低減できないのである。日本がお手本としたドイツも全くCO2の排出を減らせていない。
 2011年の東電福島第1原発の事故後に見直された第4次基本計画の策定から4年、再エネの全量買い取り制度は、失敗が証明されたと言っても過言ではない。残ったのは、今後も増大していく再エネ賦課金と電力自由化の名の下の発送電分離による電気料金の高騰と、エネルギー多消費産業の衰退である。

 ●安定電源は国家の基本
 世界中で、電力自由化を行って電気料金が下がった国は1つもない。むしろ石炭火力が増え、変動電源の再エネ増加による大規模停電が増加している。ドイツとカルフォルニアの停電の頻度は、わが国の10倍に達している。
 電力自由化に電気料金を下げる基本的なメカニズムは存在しない。安価な石炭がより使われ、送電線への投資が控えられ、非効率さが増していくだけである。
 わが国では電気の50%がモーターを回すのに使われている。電気は、産業エネルギーの源泉である。アフリカなどでは、電気が無かったところに太陽光パネルが設置され、家電製品が使えるようになって夜も照明が付くようになった。そんな発展途上国とは違うのである。工場のモーターが回って鉄板を圧延し、自動車が作られ、新幹線が走る。地下鉄も高層ビルも病院もエレベーターやエスカレーターが人を運ぶ。安価で安定した電力供給は豊かで暮らしやすい国家の基本条件である。
 では、どうすればよいのか。第5次基本計画でも、死守された唯一の解が、安全性を高めた原子力発電の再稼働の早期実施と新規立地である。経済産業省が安全性を高めた原発の開発を官民一体となって開発することを明らかにした。関西電力と東京電力も新規立地の検討を開始した。

 ●「もんじゅ」廃炉は凍結を
 しかし、取り組まなければならないのはそれだけではない。フランスの高速炉ASTRID計画が縮小されてしまい、「もんじゅ」よりも小規模になってしまった。「もんじゅ」を廃炉にした理由がASTRID計画で新しい高速炉を開発することであった。その前提が崩れたのであるから、「もんじゅ」の廃炉は凍結すべきである。
 「もんじゅ」は計画を根本的に見直し、高レベル廃棄物のなかで有害な長半減期核種の消滅処理に活用すべきである。長期間運転されていなかった「もんじゅ」の燃料のなかには、有害なアメリシウムがたくさん蓄積しているが、その燃料を使ってアメリシウムが他の無害な核種に変換できることを実証すべきだ。
 核燃サイクルの中核をなす「もんじゅ」の稼働で、高レベル廃棄物の問題もずっと軽減する。7月16日に自動延長された日米原子力協定に関して内外から批判されているプルトニウムの有効利用にもなる。
 全く機能していない原子力委員会や、再稼働審査が大幅に遅延している原子力規制委員会の審査体制の見直しも必要である。規制委の設置を定めている原子力基本法には、「人類社会の福祉と国民生活の水準向上とに寄与することを目的とする」と明記されている。「確立された国際的な基準」に従えば、規制委の国民への説明責任が求められる。安全対策についてしっかり説明し、我が国の国民生活の水準向上に寄与してもらいたい。そうしなければ2050年代の展望は開けない。