公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2018.06.25 (月) 印刷する

福島第2の廃炉が意味する深刻事態 奈良林直(東京工業大学特任教授)

 東京電力HDの小早川智明社長が6月14日、福島県庁で内堀雅雄知事と面会し「福島第2原発を全号機、廃炉の方向で検討に入りたい」と述べたことについて、各紙は大歓迎するような大見出しを掲げ、テレビもトップニュースで報じた。
 東電が福島第2の廃炉方針を明言したのは初めてであるが、内堀知事は「県民の強い思いに応じた」と改めて賛意を表明。世耕弘成経済産業相も記者団に「経営トップの責任において地元の声や福島の現状を自ら受け止めて判断し、方向性を示したことは高く評価したい」と語ったことで、廃炉は既成事実化された感がある。
 しかし、これは、わが国のエネルギー政策の深刻な失敗や原子力規制委員会の予見性を欠いた対応によるもので、とても看過できるものではない。

 ●大衆迎合のマスコミと政府
 福島第2原発も、東日本大震災時に津波の来襲を受けた。しかし、1号機へのケーブル敷設、海水ポンプモーターを東芝三重工場から空輸し、柏崎刈羽原発からも陸送して、交換。冷却源を回復して、全基の冷温停止を達成し、危機を脱した。
 この見事な事故収束対応は、米国の原発事故対応アクションにも取り入れられており、世界から高い評価を受けている。その福島第2原発が廃炉になるのである。新規制基準に適合する安全対策をとれば、大地震と津波にも耐えた優秀な発電所として今後もCO2を排出しない発電が継続できるのである。それが廃炉だという。なんとばかげたことであろうか。
 小泉純一郎元首相らの「太陽光があれば原発はいらない」発言など、再生可能エネルギー(再エネ)至上主義ともいえるキャンペーンがマスコミ報道を通じて繰り返されている。NHKなどはその代表格だ。視聴率が命で大衆迎合型の番組づくりになりがちな民放はともかく、莫大な受信料収入があるNHKは、もっと事の本質を抉り出し、人類の未来を見据えた番組を作るのが使命ではないのか。

 ●「再エネ敗戦」状態のドイツ
 わが国が再エネの全量固定価格買い取り制度(FIT)導入のお手本にしたドイツは今、「再エネ敗戦」といっていい状況に陥っている。太陽光や風力の変動電源は、すでにドイツ1国で消費できないほど増え、「輸出」されるまでになっている。
 ところが日本円にして1kW時約20円で買い取った電気の輸出価格は通常で4円、ひどいときにはマイナスになることもあるという。つまり「お金を払うので、お願いだから引き取ってください」ということだ。ドイツ国民は当初の2倍にまで高騰した電気代でその逆ザヤ分まで負担しているのである。
 近隣諸国では、電気代があまりにも大きく変動するので、受電拒否する事態まで起きている。このように問題も抱えるFIT導入であるが、ドイツの太陽光の稼働率(正確には設備利用率)は高々10%で、風力も20%台であり、残りは石炭、および石炭よりもっと安くて品質の悪い褐炭を燃やす火力発電所がバックアップしている。
 つまり天候次第で発電量が大きく変動する再エネは、火力発電と抱き合わせにしなければ安定した配電が不可能なのである。しかもドイツでは、変動電源の発電量に応じた調整電源として石炭火力発電所を維持せざるを得ない電力会社はもとより、原発8基を所有する電力会社までもが赤字に陥っている。儲かっているのは再エネ電力事業者と電気を右から左に流して利ザヤを稼ぐ電力卸会社だけである。

 ●ほとんど減らないCO2排出
 しかし、そこまで再エネに力を入れながら、ドイツではCO2の排出量はほとんど減っていない。現在はまだ稼働中の原発も止めたら、CO2の排出量はさらに増える。停電の発生率も実に10倍になった。「ウソつき」と国際的な非難を浴びたメルケル独首相は火力発電の燃料を石炭から天然ガスに転換するよう呼びかけているが、国内の石炭産業は猛烈に反対している。
 わが国も似たような状況にある。日本の太陽光発電の普及は目覚ましく、ドイツを抜いて世界第2位の太陽光発電大国になった。しかし、CO2の排出量はほとんど減っていない。再稼働にこぎつけた原発もまだ9基にとどまっている。
 発電量全体に占める火力発電の割合はなんと84%。太陽光はわずか3%(2017年データ、資源エネルギー庁公表資料)である。そして1kW時の電気を得るのにわが国は540gのCO2を排出している。ドイツは450g、原発の発電比率が78%を占めるフランスはたった46gである。
 再エネ制度導入の目的はCO2排出の削減にあった。クリーン・イメージのみが先行し、電気代だけが高騰してCO2を減らせていない日独は、「再エネ敗戦国」ともいえる。日本で儲かっているのは、いち早く投資対象として太陽光事業に手を挙げた某大手携帯電話事業者、商社などの大手に加え、規制を受けない50kW以下に金融商品として分割された太陽光事業に飛びついた膨大な投資家たちである。太陽光パネルは中国から買い付けられ、発電事業の収益は海外投資に向けられている。日本にはお金が残らない。「再エネで雇用が増える。日本が豊かになる。」と言ったのはどこのどなただったか。

 ●新規制基準も再稼働の足枷
 このような状況に陥った原因は、民主党の菅直人政権時代に導入したFIT制度について、その後も抜本的に改めてこなかったわが国のポピュリズムに根ざしたエネルギー政策にある。
 エネ庁主導ですすめられている電力自由化政策の仕上げとして2020年からは発送電分離が開始される。東電HDにとって、地元の反対で再稼働が見込めない福島第2原発は、経営上の重荷でしかない。廃炉にしないと、その設備をずっと維持するためのコストだけがかかり続けるのである。
 他の電力会社も同様である。原子力規制委員会の議論が延々と続くばかりで予見性のない新規制基準への適合審査も、経営上のリスクである。新たに営業運転に入る原発も建設費の返済と1基2000億円ともいわれる新規制基準に基づく安全対策工事費が重なるので、これも大変な負担になる。
 電力会社は発送電分離に備え、経営リスクが大きい原発や発電コストがかさむ老朽石油火力発電所を廃止し、身軽になろうとしている。福島第2原発の廃炉がもたらす深刻な事態は、ドイツの実情を見れば容易に想像ができる。ドイツの二の舞にならぬように、わが国のエネルギー政策の早期見直しと、原子力政策に対する政治のリーダーシップがなにより必要である。