公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2018.06.27 (水) 印刷する

米国の国連人権理脱退に驚き無し 島田洋一(福井県立大学教授)

 6月19日、米国務省内で、ポンペオ国務長官とヘイリー国連大使が並び立ち、国連人権理事会からの脱退を表明した。トランプ政権のかねてからの方針を実行に移したもので、特に驚きはない。
 2006年に国連人権委員会が人権理事会に衣替えした際、当時のブッシュ政権(共和党)は改革が不十分として参加しなかった。2009年にオバマ政権(民主党)が参加手続きを取ったが、再び共和党政権になれば、脱退というのは十分予想できたことだった。これを「特殊なトランプ的事象」と捉えると本質を見失う。

 ●先ず非難すべき国はどこか
 朝日新聞は、「大国の原則軽視を憂う」と題する6月22日付社説でこう書いている。
 ≪人権を重んじる大国を標榜してきた米国が、自らその看板を下ろす行動を続けている。…(国連人権理事会は)国連総会が選ぶ47の理事国が集い、世界の人権を監視している組織だ。その活動が偏向しているというのが、脱退の理由だという。実際には、米国の友好国イスラエルへの肩入れのためだ。…人権理事会は、北朝鮮やシリアなどの人権侵害にも取り組んできた。これらの国の後ろ盾である中国やロシアは、米国批判を強めている。人権を軽んじる強権国が発言力を増す機会を、米国が提供している。≫
 ヘイリー氏が強調するとおり、人権理事会は、中東で最も自由民主主義的なイスラエルに対して、北朝鮮、イラン、シリアに対する非難決議を合わせた数よりも多くの非難決議を発してきた。常識的に考えてこれは「偏向」だろう。朝日は、ヒズボラ、ハマスといった反イスラエル・テロ組織の活動に触れないが、これも偏向だ。
 引用部分後段の論理は意味不明である。中国やロシアが、最もひどい人権抑圧国である北朝鮮やシリアの「後ろ盾」で、朝日自らも「人権を軽んじる強権国」だと認めるなら、何よりそれらの国を厳しく非難すべきだろう。

 ●なんら問題意識ない日本
 実際、人権理事会の存在は、国連の場における人権問題の追及をむしろ阻害する要因となっている。それは中国の行動を見るとよく分かる。
 国連の諸組織中、加盟国全体に経済制裁を義務づけ、さらには軍事制裁への参加まで呼び掛ける権限を持つのは安全保障理事会のみである。
 従って重大な人権蹂躙は安保理で取り上げねばならないが、中国は、「人権理事会があるのだから、人権問題はそこで扱うべき」との態度を取る。そして人権理事会においては、多くの末梢的な問題の渦の中に重大事案を巻き込んで浮上できないよう画策する。
 ヘイリー国連大使は、「恐るべき人権抑圧履歴を持つ国々の隠れ蓑となっている人権理事会」に対し、これ以上正統性を与えないよう、アメリカが率先して脱退したと決意を述べ、人権問題については今後、安保理で積極的に取り上げていくと表明した。
 実際、既に昨年、アメリカが安保理の議長国を務めた月に、中露などの反対を抑え、議長権限でイランの人権問題を議題に載せている。
 決議の採択となれば、中国などは拒否権を発動するだろうが、より目立つ形で反対させた方が、その後の有志諸国の活動促進につながる。少なくとも人権理事会に事を埋もれさせるよりよい。
 アメリカは今後、人権理事会に活動資金を拠出しなくなる。その結果、日本は最大の資金提供国となるが、その日本の政府、議会において、国連のあり方に関する何らの問題意識も見られないことに今さらながら呆れざるを得ない。