公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2018.07.19 (木) 印刷する

全体構想なき日本の外国人受け入れ 浅川晃広(名古屋大学大学院講師)

 政府は、人手不足に対応するために、新たな在留資格を創設し、外国人労働者を50万人受け入れていく方針を表明した。筆者としては、今回の方針は、近視眼的、なし崩し的という印象であり、なにより、中長期的な日本の外国人政策をどうするのかというグランドデザイン(全体構想)が見えてこない。
 政府は今回の方針を「移民政策ではない」としている。では、そもそも移民政策とは何を意味するのか。なにより、「移民」とはどういう人のことを指すのか。
 通常、アメリカやオーストラリアなどの移民国家では、移民とは「永住が認められた人」を意味する。いわゆる「永住権」を付与された者を、統計上「移民」としている。
 実は日本の「出入国管理及び難民認定法」(入管法)にも「永住許可制度」があり、外国人の法的な永住が認められている。2017年末で永住が認められている外国人は約75万人であり、前年と比較して約2万2000人増加している。移民国家の「移民」の定義に従えば、日本は移民を受け入れているのである。

 ●望むのは「永住」か「出稼ぎ」か
 まず、今回の方針はこうした既存の制度との整合性が見えてこないという問題がある。
 これとも密接に関連して、外国人を、永住も視野に入れて受け入れるのか、それとも、あくまでも期間限定で、期間終了後の帰国を担保したうえで受け入れるのかということについても、不明瞭である。
 確かに、我が国の労働力人口の減少は不可避である。それを一定程度、外国人で補填するのであれば、一時的な、いわゆる出稼ぎ労働者で確保するのか、それとも、永住する外国人を増加させるのかどうかという、論点の設定がまずもって重要であろう。
 筆者としては、基本的には、日本語能力を必要としない単純労働については、出稼ぎ労働者で確保する一方で、現行の永住許可の要件を厳格化し、相当の日本語能力と収入がある者のみの永住を認めるべきであるという考えを持っている。

 ●永住には不可欠な日本語能力
 外国人がわざわざ日本での単純労働を厭わないのは、為替レートの格差によって、母国と同じ労働でも、母国に送金すれば相当の収入になるからだ。 しかし、日本での定住が前提となると、日本の水準では、賃金はさほど高いと言えず、雇用形態も安定的とは言いがたい。日本語能力が欠如しているとなると、景気変動に極めて脆弱である。
 実際にこのことは、日系人の受け入れで「実証済み」で、リーマンショックによって、雇用を失い、日本語能力が欠如していたため、他業種への転換ができず、帰国を余儀なくされた。今回の政府の方針も、将来的な景気変動によって、同様のことが繰り返される可能性を十分に内包している。
 よって、永住までを視野に入れた長期間の外国人の受け入れには極めて慎重になるべきである。このため、永住が認められるためには、安定的な雇用と高度の日本語能力を持つ者のみに限定すべきである。残念ながら、現在の永住許可の要件に明示的な日本語要件は設定されておらず、必ずしも厳格な運用とはいえない。
 一方で、永住・定着防止を前提とした、出稼ぎ単純労働者については、前向きな導入を考えてもいいのではないか。一部で「外国人を安く使うのか」という声があるが、ポイントを外している。
 そもそも途上国では失業率が高く、賃金水準も低い。途上国の人口増加も続いており、雇用の拡大は重要な課題だ。日本で働けば母国より高い賃金が得られ、それを送金すれば家族も潤い、生活水準も向上する。間接的に出身国の経済に貢献しているといえる。我が国としては、労働力が補填されて、ウィン・ウィンの関係と言えよう。

 ●「高度外国人材」は一種の幻想
 なお、いわゆる「高度外国人材」も、一種の幻想である。当然ながら高度の日本語能力が前提となるが、日本語の国際的地位や言語としての難しさを考えれば、日本経済全体に影響を与えるほどの数は期待でない。
 むしろ、単純労働者こそ、途上国には膨大な人口のプールがあり、日本で労働し、高賃金を稼ぎたいとする者は相当数に上ると考えられる。筆者としては、定住を前提としない出稼ぎ外国人を適切に活用すれば、労働力人口の減少にも十分に対応できると考えている。一方で、日本で永住を認める外国人については、年収や日本語能力などについて厳格にすべきである。
 単に目の前の「人手不足」になし崩し的に対応するのではなく、中長期的な外国人政策のグランドデザインの構築が何よりも求められているといえる。